何事も諦めをつけるためには理由が必要である
ガヤガヤと楽しげな会話が幾つもの場所から室内に響きわたり、所狭しと学生たちで埋め尽くされているここは平日の大学食堂。
僕と要もここへ昼食をとりにきたのだが、場所が開いておらず仕方なく校内にあるコンビニで買って済ませようとつい今しがた決めたところである。
「しかし学食って無駄に安いよね、ジャンボチキンカツ定食なんて400円だよ」
学食の表に立ててあるメニューを見ながら僕は言った。
「まぁ学生向けってのもあるが……、そういえばどこかで学費に一部含まれているっていうのも聞いたことがあるな」
「なら無料で食わせろと言ってもバチは当たらないんだろうね」
そのときは朝昼晩毎日が学食になるのだろうけれど。
コンビニですでに学生たちによって物色されつくした残り物を手に取りレジで順番待ちをしながら要と他愛もない話をする。
そして開いていたベンチに男二人で腰を掛けて少し出遅れた昼食とした。
「ところで要君。約束を忘れていないかい?」
「約束?」
「君に協力したら渡してもらうものがあっただろう」
先ほど購入したサンドイッチをビリビリと開けながら僕はところかまわずホレホレと要に催促する。
もう経営学概論の試験の日も近いのだ、悠長なことは言ってられないのである。
アレが僕には必要なのだよ。
「あぁ、分かってるよ。飯食って次の講義の時にでも渡してやるから」
ふふん、これの為に身体を張ったのだからね。ちょっとはお釣りをくれてもいいくらいの働きはしたはずだ。
「あれから遠藤さんからは何も連絡がないのか?」
うんうんと自分の先日までの活動内容を自賛していると要が言った。
「遠藤さん?そういえば何も連絡が来てないね。ライブのこととかも一切」
僕の連絡先一方的に教えただけだからこちらから取りようがないし、むしろこのまま来なくてもいいのだけれど。
「要は遠藤さんと連絡先を交換していないのかい」
「いや、してるにはしてるんだけどさ。一樹に連絡するって言ってたから俺から連絡するのはちょっと筋違いかなってさ」
「なるほどね」
それでもどうやらライブの予定が気になるようでうずうずとしているらしい。
全く、一見すれば禁断症状みたいになっているよ。
「週末まではまだ時間があるし向こうからコンタクトがあるまで不用意な行動は慎んだ方がいいかもしれないね」
要の気持ちもわからないでもないが、あまり思い切った行動は避けたほうがいいだろうという僕の案だ。
ただでさえ日ごろから引く手が数多な彼女に近づこうものなら面倒なことになるだろうし、かといって要から連絡先を教えてもらうのもなんとなく僕が負けたみたいで嫌だ。
「まぁ、そうだな」
SORAのことになると少々見境がなくなる要であるがここは大人しく同意してくれた。
要にとっても彼女の機嫌を損ねるのはよろしくないと踏んだのであろう。
おそらく僕から連絡をすれば別に遠藤さんは機嫌を損ねることなんてないだろうし、むしろからかってきそうな気もするんだけどね。
コンビニで買った昼食はものの5分で食べ終えて、次の講義まで30分といったところか。
とくに行くあてのない僕と要は少し早めに講義室へと移動を開始し、時間が来るまで着席することにしたのであった。
「ほら、渡しといてやるよ。俺、コピー持ってるから返さなくていいぞ」
ゴソゴソと要の鞄から出てきた例のファイルを僕はすかさず受け取り、そして中を開いて本物であるかどうかを念入りに確認する。
「はは、安心しろってさすがに今度は本当だ」
すると神経質になってしまった僕を見て要は笑う。
「そういって次も利用されたらたまったものじゃない」
どんな時であっても前科というものは重いのだよ。
それこそ信用問題に発展するからね、僕のように肝要な人間でなければこんな穏便に済まないのさ。
しばらく無言でファイルをめくる僕と、スマホを取り出しネットサーフィンをはじめる要。
そういえば要って大学で僕と一緒にいるときはあまり他の人と関わらないなと、ふと疑問に思った。
外に遊びに行くとなったらいつも数名はいるものだけれど、校内で一緒になったことは数えるほどしかないかもしれない。
まぁ僕は楽でいいのだけれど、何か制限しているみたいで少し悪い気もする。
「確かに」
数分後、パタンとファイルを僕は閉じた。
結局、要のことに関してはあまり考えないようにしてからしっかりと四回生までの内容がびっしりと書き綴られていたことを確認した僕は受諾の返事をした。
「どこの役員だよ」
変な突っ込みを入れられながらもいそいそと紛失しないよう、丁寧に僕の通学用の鞄の中へとしまう。
ふと時計を見てみれば講義開始の10分前で室内にも学生が入ってきていることに気がついた。
「どっちがピッしに行く?」
「じゃんけんだろ」
お互い握りこぶしを出してから「ホイ」と各々が手の形を変える。僕がチョキで要がグー。
遠慮なく僕に自分の学生証を手渡し「よろしく」と背中を叩いてきた。
「けっ」
「なんだよそれ」
要は悪態をついて2枚のカードを手に席を離れる僕を肘つきながら見送った。
うわぁ、相変わらずこの講義は混んでるなぁ。ファイルのチェックをする前にカードをかざしておくべきだった。要も一言いってくれれば良かったのに。
とはいえブーブー言ったところで仕方がないので大人しく長蛇の列に並ぶ僕であった。




