EP5
「疲れた……」
あれからまた折って連絡すると言われ、僕の連絡先を遠藤さんに教える羽目になり仕方ないとメールアドレスと電話番号をメモにして渡した。
すると早々に連れ添いの2名と揃って会計を済ませて出て行ってしまった。
要たちもその後しばらくは僕にだらだらと意見してきたが、彼女たちが満足したのか定かではなかったけれど会計を済ませることとなる。
そして現在、僕はバードの休憩室で一人ソファーに腰を掛けてノックアウト状態で伸びていた。
「斉藤さん、今日は大変だったね」
頭を完全に背もたれの向こう側に向けていたのだが、目を開けると左手を口元に当ててクスリと笑う木下さんが逆さに映った。
「やぁ木下さん、お疲れ様。業務とは関係ないところで、だけれどね」
何気に右腕を後ろに回し、ドアの付近でちょこんと立っている様が可愛い。
「うん、お疲れ様」
可愛い。
「斉藤さん」
「なんだい?」
必然的に今の構図からいって僕を見下げるように木下さんは言った。
「斉藤さんって嘘つくの下手、だよね」
僕の眉がピクリと動くのを感じた。
そんな可愛らしいポーズを取っておきながらいきなり僕の心臓にめがけてとどめを刺そうというのかい。
「誰かさんの為にしている嘘だけど、その誰かさんにも勘違いされてしまう。そんな下手な嘘」
冗談交じりにふざけて木下さん鬼やぁ。などと思っていると逆さの木下さんはそっと僕の方を悲しく優しい目をしながら言ったのだった。
あまり冗談を思い浮かべるほどいい雰囲気ではないのかもしれないと察した。
「あまり斉藤さんのそういうところ、私は好きじゃないかな」
僕は事あるごとに使用することがあるのだけれど、自己犠牲なんてものは都合の良いただの言い訳であると認識している。
自らを貶めるという行為は使いどころを間違えると取り返しのつかなくなる諸刃の剣。
だけれど本心から思っての行為ならば問題ないのだが、こうやって木下さんのように敏感に感じ取ってしまう人には心労を掛けてしまう。
「僕は僕さ。誰かの為じゃなく、面倒になりそうなことはしたくない。ただそれだけだよ」
「じゃあどうして最初から行くって言わなかったの?」
「それは……」
それは遠藤さんのため。なんだけど、どうしたものか。
要を使うか?最後に要の為といった風に話を括っているし……などと少し悩んでいると、木下さんが再びクスリと笑ってこう言った。
「ほら、そうやってまた嘘を考えてる。顔に出てるよ?」
「……降参かな」
「うん。斉藤さんだってもっと素直に、感情的になってもいいんだよ。いつも遠まわしな言い方をしているけれど、それもその人のことを思ってのことだってことくらい私にだって分かるよ」
ゆっくりと僕の頭に近づいてきながら木下さんは続ける。
そして、僕の頬を両手で少し音が鳴るくらいパシッと掴むのだった。
「斉藤さんが傷つくと、それが原因で傷ついちゃう人だっているんだからね?」
可愛くあざとく、ムッとした表情で木下さんは僕に優しく警告してくれた。
本当、いい子だよね木下さん。
「そうだね、そのとおりだ。ありがとう」
「うん」
するとニッコリと笑顔になって、そっと僕の顔から両手を離した。
「あーあ、斉藤さん。私、誰かさんが心配させるからお腹減っちゃったなぁ」
「あ、ドーナツ食べに行きます?僕、奢りますよ」
木下さん、カツアゲも上手ですね。




