EP4
とは言え、ただ行きません。いやですと言うだけで済むならこの上ないのだけれど要および付き添い2名のせいで少し拗れてしまった。
だからまずはこの人たちに僕が本当に行きたくないという確固たる意思表示をしなければいけない。
「じゃあまず順をおって説明しようか。何故、僕が"はい"と言わないのかについてだよね」
だからこれから語ることが1番目の理由だとジャスチャーでも判るように僕は人差し指を立てて言った。
とはいっても別に意味なんてなく、単純に行きたくないだけである。つまりそれらしい事を言って、この計画に僕だけ参加しないように出来ればいいのだ。
「良く知りもしない相手と長時間一緒にいることが苦手だから。と言うべきだろうか」
皆から向けられる目線がジトッとしたものに変わるのを感じた。
えぇ……、いやまぁ?確かにちょっと人付き合いをして上ではどうかなと思う内容だったとは思うのだけれどね?初対面もしくは会って2、3回の相手と1日行動を共にすることって出来るものなの?僕には出来ないね。
あまりにもいい感じのしない雰囲気に少し僕は戸惑った。
「んん……、一樹すまんが」
そんな時、咳払いをしながら眉を顰めてそっと要が右手をあげる。どうやら何か意見があるようだ。
「それはその、人見知りが激しいから顔見知り以外とは行きたくないっていう見解で間違えないか?」
「あぁ、うん。そうだね、はぁ……それでいいよ」
ため息をつきながら要の言うことを一先ずは肯定する。
ふん。人がせっかくオブラートに包んだ物言いに変えたというのに、えらく直結的な答えを出してくるじゃないか要君や。
「自分で言っておきながらなんでそんなに残念そうなんだよお前は……」
「いや、ちょっとね。僕の語彙力というか応用力というべきか、そんなところに少し落胆していただけさ」
もっとうまい言い回しはなかったのだろうか。
男二人が互いに何やってんだこいつ(僕)と思い合っているとバンッと穏やかじゃない音が店内に響き渡った。
「はぁ!?きっもいんですけど!ちょっと、ありえないんですけど!?」
カウンターに座るウェーブの利いたほうの女子の一人が声を荒げ、ついでにカウンターテーブルをたたいて音と声を上げた。
ちょっとですけど多すぎませんか、ですけど。
「まじで、ホントありえないよね。何が"順をおって説明しようか"よ!ただコミュ障なだけじゃない」
もう一人の女子も今まで合いの手しかしてこなかったのにここぞとばかりに自らの意見を発した。
さらっと僕の真似するのやめてもらえませんか。いや、やめてください。そして人差し指あげないでください、恥ずかしい。
「一樹は内気なところが多いから……」
「要君だってコイツを甘やかせすぎなのよ。授業の時だっていつもレポート写させてあげたりしてるんでしょ?辞めたほうがいいよ絶対!」
ドウドウと宥め様とした要までとばっちりを受けてしまった。
いや本当のことを言ってもいいのだけれど、大勢の前でいうと"遠藤さん"の立場が、ね?
僕の面倒くさい気持ちが7割と残り3割は遠藤さんのためなんだからね?
ジッと察してくれというアイコンタクトを遠藤さんに送ってみるのだがどうやら受け取ってくれる様子はないようだ。むしろ、"来い"と訴えかけてくる冷たい目線を向けられているようにも思える。
くそう、心のフィールドが硬すぎて僕の気遣いが遠藤さんに届かない。
いいかい?このままだと君の学園での立場も危ぶまれるということを理解しているのかい。
しかしこういう修羅場的なものに嬉々とする性質なのだろうか、どことなく嬉しそうだ。
そういやアホの子だったねこの人。
「斉藤さん、少しいいかしら」
「ん?」
期待するだけ無駄だと諦めていると透き通った遠藤さんの声が僕の名を呼んだ。
「私のことを心配していらっしゃるなら大丈夫ですよ。これでも"慣れて"ますから」
慣れている。それは一体何を指し示すのだろうか。
大勢の前でも偽り続けることが出来る。あるいは、僕がうっかり洩らそうものなら消滅することを意味しているのかは定かではないが、桜子さんなら僕一人くらい余裕で捻られるだろう。
僕と遠藤さん以外の人には今のやり取りが理解できなかったようで、全員が首を傾げ"?"を浮かべているのが目に見えた。
「あぁ、そうなのかい」
とりあえずは遠藤さんがどの部分の心配を指しているかはわからないけれど、ここで僕まで"?"になってしまうと察しの悪い男の子になってしまうのでそれらしい返事をする。
行きたくないなぁ、絶対遠藤さん何か考えている顔してるしなぁ。
僕と遠藤さんの関係は前のボーリング場で終わったのさ。
別に恋仲になりたいとかそんな青春・青臭い心なんて裏の君は持ち合わせていないだろう?
ダーク遠藤さんを知る僕は少なからず警戒しているし、いくら僕の口が堅いといってもいつ君の猫かぶりだというボロが出るか分からないのさ。
そんなリスクを犯してまで共に行動をする必要はあるのだろうか、否、断じてないのである。
僕はこれからもずっと君の事は誰にも告げ口する気はないし、しても信じてもらえないだろうさ。
だからそっと野放しにしてくれると助かるんだけどなぁ。
「ねぇ、要。要はこのライブに本当に行きたいのかい。ファンとしてとかじゃなく君の気持ちで結構だよ」
まぁ、最終的にこういう結末を迎えてしまうだろうことは分かっていた。
そして話の流れ的に行くだの、ライブのチケットが取り難いだのと抗弁を垂れていたが、要個人としてどうなのか僕は訊ねた。
「純粋に行きたいよ、あぁでもやっぱりいつもの大きな会場じゃなくて間近で観賞できるっていうのが大きいんだけどな」
僕にニカッと笑っているのは明るくまじめな性格と僕以外には気が周り、運動神経・学力ともに申し分のないイケメン橋爪要。生粋のドルオタである。
彼のために行くというような話しの持ち運びをしてから早々に結論を出す。
「そうかい、分かったよ。僕も行くよ」
別に要のためじゃないんだからね。
あと営業時間内だから早く帰っておくれ。




