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日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
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EP1

 なんだか凄く疲れた気分になりながらもカウンターへ戻ろうと目をやると要とその知り合いの二人、そして木下さんの視線がばっちりと僕を捕らえていた。


「……なんだい皆して」


 何か言いたげな顔をしているニヤけ面をした要に言った。


「いや、なんでも」


 なんでもないことなんてないだろう。


 わかるさ、僕があの中で絡まれていた内容が知りたいのだろう?誰が教えてやるものか。


「斉藤君って遠藤さんと知り合いだったの!?」


 しかし遠慮の無い要の知り合い達は本能的に僕に質問を投げかけた。


 能動的に行動できるのは賞賛にあたいするけれど、時と場所を考えて頂きたい物であるが彼女たちにとっては知り合いでも友達でもない僕に遠慮する必要はないのかもしれない。


「この前に一度、要を通して会っただけだけだけれどね。友達とも知り合いとも呼べる仲ではないよ」


「そのわりには随分と会話が弾んでいたようにも見えたけど」


 これ以上勘繰らないでいただけないだろうかお嬢様方。


 僕の魔力(マジックポイントをどこまで削るおつもりですか。


「そんなに良いものじゃないさ。とばっちりを受けた、それだけだよ」


 そんなことよりさっきから会話の行方を見守っている食器の返却口から顔を出した木下さんが会話の主を追いかけようと視線を一生懸命に動かしている姿が可愛い。


 まるで猫じゃらしを目の前にした猫のようである。なにこれ五月人形の振子の虎かな、お持ち帰りしたい。


 ……かなり木下さんに僕は毒されているようだと、この時思った。


「あの帽子被った人は誰かわかったのか?」


 要が先に入店していたキャスケットの女性の正体が気になるのか僕に訊ねるが生憎と間近で見たにも拘らず特定することは出来なかった。


 とはいえ僕はタレントなどというカテゴリーに属するメディアには疎いと自負しているから要や女子たちならばわかるかもしれないけれどね。


「いや、僕じゃ誰だか分からなかった。少なくとも見たことがないかな」


「まぁ一樹はそういうのに疎いからな」


 そう言いながら要は珈琲を口に運ぶ。


 じゃあ聞くんじゃないよ要君、何優雅に爆弾投下しといて珈琲を飲んでいるのさ。


 まるで僕が、仮にも情報社会といわれる現代についていけていないみたいになるじゃないか。


「あはは……それで斉藤さん、追加のメニューとかは無かったのかな?」


 軽いジャブを要から食らった僕に苦笑いを浮かべながらも木下さんは気を使って仕事はないかと言ってくれる。


 そこの女子たちも笑っていないで見習いたまえ、今日限りの関係だろうけどね!


「あぁ木下さん。うん、特に注文は無かったよ。僕がいる必要もなさそうだし頃合を見て戻ってきただけだから」


「そっか、じゃあ私は待機してるね」


「了解した」


 そう言い残して僕の癒しは厨房へと引っ込んでいった。まるで亀のようだ。


 その後はゆったりとした時間が流れ、これ以上の来客もなく要たちは意味も無く居座るし遠藤さんたちも何やら盛り上がっているようである。


 ぼーっとしながら鳩時計の針がカチカチと動く音に耳を傾ける。


 何分経っただろうか。


 しばらくすると僕のどこにも向いていない視界に影が差した。


 なんだ?と思って影の主の方へ顔を上げるとそこには遠藤さんが一人、立っているではないか。


「お手洗いならあちらですよ」


 店員を席に呼ぶことも無く自ら店員を尋ねる際の質問があるとするならば基本的にこれで間違いないだろう。


 しかし、どうやら違ったようである。


「ありがとうございます。でもそうではなくて少しお話があって来ました」


 要たちがいるからか口調がボーリング場にいた時と同じ外面の対応になっていた。


 まぁ僕も店員だから砕けたしゃべり方は要たちにしかしないのだけれど。というか、そもそも遠藤さんとは一度顔を合わせただけなのでそこまで打ち解けられるようなレベルに達していないというのが正しい。


 あ、別に打ち解けたいとか、仲睦まじくなりたいとかそんなんじゃないんだからね。


「あ、じゃあ遠藤さんここ座る?」


 そう声をかけるのはイケてるメンズ要だ。隣の椅子に置いていた自分の荷物を持ち上げて、空き席を作る。


 何か言われる前にエスコートする姿は様になっていて手馴れているというべきか。


 だけれど決して他のイケてないメンズたちは真似しないように。


 こういうのは様になっていないと「お前なんかに言われなくとも」と思われるのが関の山だからね、僕なら見て見ぬふりをするのがベストだと思う。


「ありがとう橋爪君」


 要からの気遣いを遠藤さんは素直に受け取った。


 もういっそのこと僕に用事を作るよりも、長く居座っている要の手を引いてどこかハネムーンへと旅立って頂きたいのだけれど。


 わざわざスカートに変な皺が付かないように丁寧に腰をかける様はさすがというか、無意識なんだろうけど気品があるように見える。


「さてと」


 カウンターの椅子に腰をかけるや否や遠藤さんは自然体で僕の方を向き、口を開いた。


「さっそくお話の件についてですが"再来週"の日曜日にSORAのゲリラライブがあるんですけど、良かったらここにいる皆さんも参加されないかと思いまして提案しにきたんです」


 凄く丁寧な言い回しで告げられた話というのはどうやらライブへの招待らしい。


「あの失礼だけど遠藤さん。SORAがゲリラライブって本当かな?俺、結構イベントごとは把握してるつもりだったんだけど全然そんなこと載って無かったよ」


 この話に一早く食いついたのは要だ。


 大の林檎ファンである要は、SORAのイベントとあらばたとえ行けなくとも遠方のイベントまで把握しているはずだ。


 先日の近隣で行われていた林檎だけのイベントにも単独で行っていたらしいし、そんな彼が無かったというのだから情報は上がっていなかったのだろう。


「ええ、父親が取り仕切るグループの傘下にライブの運営をしている会社がありまして。私も彼女達のファンということもあって新鮮な情報が手に入りやすいんです」


「なるほど……」


 あぁ、要の目がとてもキラキラと輝いているじゃあないか。

 こんなに生き生きとしている要君は久々に見るけれど、正直僕は遠慮願いたい。

 どうせ行っても会場にある大きなモニター越しでしかSORAのメンバーは見えないし、周りは手を上げたり踊ったりするんだろうし、ぶつかるし。体力面で最後まで生き残れる自信が無い。


 そしてなにより、人ごみが苦手だからね。



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