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日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
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冴えない彼の目に映る私の色は何色か

 大してそこまで親しいとまでは言えず、言葉を交わしたのも一度きりの関係を持った喫茶店で働く同じ大学の男の子がいる。


 薄く丸い眼鏡を掛けてボサボサに伸びきった髪は整えたところを見たことが無く、ジャージにパーカー、まさに冴えない男の代名詞を集結したような人だった。



 その日は確か、先日参加していたインターンシップの打ち上げと打ち合わせを兼ねた集まりがあって、あまり気分は乗らなかったのだけれど仕方なく足を運ぶ事にした。


 そもそも事業体験をしてきなさいという親からの指示があったが為に厄介ごとに巻き込まれてしまうことになるのだけれど、結果論としては良かったと思っている。


 周りは私の事を才女や令嬢などと捲くし立てているけれど、昔から一企業の実業家として働く父の背中を見て育ち、あらゆるところへ顔を出してきたことによる副産物の、仮初の姿である。


 本当の私は面倒ごとは避けたいし声を上げて遊園地で遊んでみたいし、ファーストフード店に入ってみたいと常日頃から思うような至極一般的な女子大生なのだから。


 しかし仮初である姿に周囲は好意を持ち、私という人格が他者によって確立され、仕舞いにはミスコンのグランプリを受賞してしまうという意図しない出来事にまで発展してしまうことになってしまった。


 親は鼻を高くして私を自慢しているようだけれど、私にとっては災いにしか捉えられないから辞めて欲しいばかりである。



 大学で過ごしている時もそうだけれど、過剰なまでに注目され人気を博してしまったのだと、もう元の学生生活には戻れないのだと酷く後悔した。


 結果的にこのインターンシップに参加した内、15名中8名が男子で一人を除いて他大学から来ているにも拘らず私のことを知り、傍を離れようとしない。


 もう男性に囲まれることに慣れてしまった私は感覚が麻痺しているのだろうと自虐でもなく、本能がそう告げている。


 どうやら各々が自己の容姿に多少なりとも自信があるらしくあれが得意だのこれが好きだのと周囲360度を囲まれて猛アピールを受けているようだ。


 そろそろ愛想笑いが苦笑に変わりつつあるのを察して欲しいところだけれど、気の利かない彼らにそんなことに気が付くような余地はないんだろうなと諦めていた。


 あぁ、早く帰りたい。


 家に帰ったら親に内緒で購入した電子版のライトノベルや漫画を読みたいな。


 帰宅したら何をしようかと現実逃避を始めてからしばらく経つと、視界には男の体ばかり映るがどうやらリードされるがままに歩いていたらボーリング場に着いたようである。


 最早どの道を歩いてきたのかすら判らないというのもどうかと思うけれど、肉体以上に精神的な疲れを覚えた私は男子にお願いをして椅子に腰をかけた。


 大丈夫?何か買って来ようか?という当たり前の愁眉しゅうびを寄せてくるが、この原因が貴方達だってことを理解していただきたい。


 そしてボウリングのレーンを決めるクジが始まりようやっと開放された私は一息つけると思ったのだった。


 愛想笑いを絶やさずクジへ掛けていく男の子達に手を振りながら最後の一人を見送ると一気に肩の荷が降りたような感覚に陥る。


(あぁ……疲れた……)


 もう何も考えたくないなと一息ついているとこちらをじっと見ている一つの視線に気がついた。


 ボサボサの頭に丸い楕円の眼鏡、ジャージにパーカーを身に纏い私の事を"興味が無さそう"に見ていたのである。


 しかし、ぼーっとしているものの目がしっかりとこちらを向いているのだから私の事を見ていることくらい、自意識過剰かもしれないけれど判るというものである。


 きっと気の小さな人なんだろうと、失礼な事を思いながらもその冴えない男の子に小さく手を振ってやると何故か観念したかのように気だるそうにペコペコと頭を下げ始めた。


 思っていたのと違う彼の反応に違和感を覚えた。


 気がつけばリーダーをしていた津田さんがクジの入った抽選箱を両手にこちらへと駆けてきた。


「それじゃあ、次は遠藤さんね!ごめんね、最後で」


「いいえ、大丈夫ですよ」


 そう言って津田さんがズイと出してくる箱に手を入れてみると残ったカードは本当に1枚だけだった。


 取り出してみると2番というカードがそこにはあった。


「私は2番ですね」


 私が引いた数字を提示するとさっきまで囲っていた男の子たちが阿鼻叫喚と声を上げていた。


 さっきのぼさぼさの人が気になって見てみるとどうやら彼も私と同じく2番を引いたようである。


 せっかくだし何か声を掛けてあげようかなと思っていると随分と橋爪君とは親しいようで、カードを交換するや否や話……交換?


 あろうことか私の耳に飛び込んできたのは、自ら2番のカードを明け渡そうとする声だった。


 これに関しては自意識過剰と思われるかもしれないけれど、正直なところ男性を振り向かせるくらいの自信があった。実際その様に扱われ育ってきたのだから感覚的にも根付かないわけが無かったのである。


 誰もが一度はこちらを向いてから改めて振り返ってしまうかのような、こちらがそんなつもりじゃなくても周囲の視線を集めてしまう。


 一度でも対象に愛想を良くしようものならその気になって話しかけてくる、そんな日常をこれまで何度も体験してきた。


 だけれど今、私の中で確立していた常識がコレという目立った容姿をしているわけでもない一人の冴えない男子に覆されようとしているのだから、これまで味わった事のない"屈辱"に呆然としてしまう。


 先ほどのまるで興味が無いようにこちらを向いていたあの素振りは、振りではなく本当に興味がなかったというのか。


 ただただ観察し見透かされたかの様な感覚を私は冴えない一人の男子に覚えた。


 ぞくりと背筋から心臓にかけて冷たい血液が流れる。


 あの薄いメガネを通して私のナニを見ていたのだろうか。


 観念したかのようにペコペコとしていたあの行為の意味は……?


 これまで思うがままに、ただ少しの猫を被るだけで男性の視線を我が物に出来ていた私が獲物を仕留め損ねたかの様な、全くをもって"面白くない"状況のまま2番のレーンへと移動を開始する。


 他大学の男子たちが次々と自分達のボールを選びに行き一般女性では決して持上げられないような重たいボールを次々と手に取っていく。


 気になるあの冴えない男子は何を選んだのだろうと気になり、見てみれば女性でも持てる8ポンドを揚々と手に取っているではないか。


 非力か、非力なのか彼は。


 いやしかし、顔や髪型、服装は全く冴えていないが体つきは何かスポーツをやってたかのような感じはする。


 力自慢という一般的な男性としての見栄すら張らないということなのかと、遠藤晴香は独りでに疑心暗鬼に陥っていた。




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