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日陰男と高嶺の花の恋愛ジジョウ  作者: ナナモヤグ
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EP4

「そういや一樹、髪型変えたのか?」


 ゆっくりと珈琲を口に運ぶ要が気がついたのか僕の髪形について疑問を持ったようである。


「あぁ、これ?シフト前に店長にいじられてさ、僕がやったわけじゃない」


 実際、自分の今の髪型がどんなものになっているのか鏡を見ていないからわからないのである。


「前の髪型でもいいと思うけど、俺は今のほうが良いと思うぜ」


 要はにししっと歯を見せて僕にそう告げた。


 木下さんからも好評だったことは記憶に新しく、どうやら受けがいいらしい。


 気が向いたら店長に聞いてみよう。面倒くさいからたぶん聞かないけれど。


「でもこの人が要君の隣にいた人だったなんて気がつかなかったなぁ」


 要の隣に座る女子がカップを両手で持ちながら言った。


「うんうん、失礼かもしれないけどこういうの(おしゃれ)とは縁が無さそうっていうか」


 続けてもう一人の女子が遠慮なく続けるがその意見には思いっきり失礼だよね、とは言わなかった。


 外面に全く気を使っていないのは自負しているからね、当然の評価であることくらい承知している。


「なぁ、だから普段ももう少し気を使えって。一樹の素材は悪くないんだからさ」


 素材ってなにさ素材って。僕の身体をロボットのパーツと勘違いしているんじゃないだろうか。


「僕としては大学は勉強するだけの場所だし、今までのように制服とか指定された服装がちょうど良かったと思うけれど。普段はジャージで充分間に合ってるし」


「えー、大学生にもなってまた制服とかやだぁ」


「ないない、絶対なーい」


 しかし僕の意見は受けが悪かったようで女子二名からぶーぶーと非難の嵐を浴びたのである。


 最早、これじゃあ大学へは勉強しに行っているのかファッションショーをしに行っているのかもはやわからないよね。


「そうは言うがお前、普段講義中寝てるじゃん」


「あぁ、そういえばそうだったね」


 失礼、勉強とファッションショーと昼寝をしに行くところだったと訂正しよう。


「全く、一樹は高校の時は休日どう過ごしてたんだ?」


 前振りなくいきなり何故か僕の高校生の頃の事を聞いてきたのだ。


 あれ、これってそういう話に繋がる話題だった?


「別にどう過ごすも何も、休日も部活だったし制服と運動着とジャージの繰り返しだよ」


「あぁ、すまん。そういえばソフトテニスの強豪だったもんな、一樹のところ」


 こう見えて毎回、県大会は出場していたしその上の地方大会までは何度かあがったことがあるくらいにはテニスをちゃんとしていたのである。


 意外だと思うかもしれないけれど、なにより僕が一番意外だったと思っている僕的七不思議である。


 なんであんなにソフトテニスに没頭していたのか今でも分からない。


 対する要も別の地方ではソフトテニスの有名な高校出身でそれなりに個人名も通っていたらしい。


 最後の大会では互いに全国までは上がることなく終わったのだけれど。


「そうなの?じゃあさじゃあさ、今度要君と試合してよ!」


「それ見てみたいかもー!」


 どうやら要がソフトテニスをしていたことを知っているのか、僕がソフトテニスに携わっていたことを知った彼女たちは要と試合しろと言うのである。


「悪いけれどラケットは実家だし、運動着もないし、シューズもないから、ごめんね」


 素直にいやだとは言わず、道具が全くないのだということで今回の話は無かったことにしようと思った。


「ラケットとシューズはともかくジャージがあるだろ」


「失敬な、ジャージは運動着じゃない」


「いや、運動着だろ」


 運動着?いやいや、一応僕の普段着なのだけれど。


「えー、私も斉藤さんがテニスするところ見たかったなぁ。橋爪君、おかわりいる?」


 するとカウンターの後ろから声がしたので振り返ってみると、食器を行き来させる窓からひょっこりと顔を出している木下さんがいるではないか。


 なにこの小動物みたいな生き物、可愛い。


「こんにちは木下さん、それじゃあおかわり貰おうかな」


 先日の一件で僕と木下さんが一緒のバイト先であることを知っている要はとくに驚くことなく挨拶を返した。


 僕は要からカップを受け取り、食器口にいる木下さんに渡すついでにさっきの返事をする。


「そうは言うけれど木下さん。戦っても僕がボロボロになるだけだからさ」


 さすがに木下さんの頼みであっても公開処刑は避けたいのだ。


「そんなに橋爪君、強いの……?」


 僕が大げさにいうものだから信じてしまった木下さんが申し訳ないことをしたと口に右手を当てながらコップを受け取った。


 むしろこちらが申し訳ないというか、逆にちょっと悲しいというか。


 あれ、なんだろうこのもどかしい感じ。


 すっごくもやもやするよ?ちょっと、やめて。そんな可哀想な子を見るような目で僕を見つめないで。


「いやいやそんなことないって、こんなこと言ってるけど成績だけでいえば一樹の方が俺よりも上なんだよ」


 そして何故か要にフォローされる羽目になった。


 なんか勝手に僕が自滅しているみたいな感じになってない?


「ラケットとシューズが無いのは本当だけれど、そもそも僕は前衛、要は後衛だし。ラリーじゃ絶対に勝つ自信なんかないよ」


「大学のソフトテニス部とかには入らなかったの?」


「んー、入った当初は考えたこともあったのだけれど、そもそもうちの大学、硬式しかないんだよね。硬式だったらやらなくていいかなって」


「一樹の言うように、軟式と硬式って全く別物のスポーツだからさ。ルールとかコートは酷似してても初心者に毛が生えた程度にしか出来ないんだよな、だから俺もやめた」


 要も同じ理由でテニスを続けることを辞退したようである。


「なんか勿体無い話だよね、そんなに頑張っていたものなのに」


 要の隣に座る女子が失礼かもしれないが柄にも無く言った。


「まぁ、逆に高校の頃は部活に全部時間を持っていかれていたからテニスのない学生生活も悪くないと思ってるけどね」


 木下さんから珈琲のおかわりを受け取り、要に渡しながらその女子に僕は言った。


「そんなもんなのかなー」


 ふーん、と特に僕からの意見は興味が無かったようで温度の下がったカプチーノに再び口をつけた。


――カランカラン


 話の山らしい山もなかったけれど、一度落ち着いたところで店の入り口が開く音がした。


「いらっしゃいませ」


「いらっしゃいませー!」


 本能的に音に反応した僕と木下さんがほぼ同時にもてなしの声をあげる。


 もはや反射的に行動しているといっても過言ではない、たまに他所の店なのに言いかけることがあるくらいに。


 それはいいとして、来客である。



 入り口の方へ目線をやるとスーツを着た女性と、パーカーにスカート、そしてキャスケットを深くかぶった女の子が来店してきたようである。


 なんだろう、キャスケットって深くかぶることが最近の流行なのだろうか。


 この前の出来事で出会った遠藤さんの執事、日笠さんも登場時は深くかぶっていたことを思い出す。


「二名様でよろしいでしょうか」


「はい」


 他に人はいないかと訊ねると女性が短く返事をし、肯定した。


「では、あちらの席へどうぞ」


 入り口から少し離れた奥の二人席へと僕は勧める。


 スーツを着た女性は僕よりも身長が高く、横を過ぎる時に僕の目線が鼻の辺りであることを認知し、ヒールのせいかもしれないけれどこの人高いなと思った。


 その後ろに続くキャミケットの少女は帽子のせいでもあるが、165センチの僕とほぼ同時といったくらいだろうか、もう少し僕にも身長が欲しいと切に思うのであった。


 しばらくして二人が席に着き、荷物を降ろすことを確認してからカウンターに置いてあるメニューを持って二人の下へと向かう。


「失礼します。こちらが当店のメニューになりますのでお決まりになりました「カフェモカ」ら……」


 僕が言い切る前にキャスケットを脱がない女の子が少し甲高い声を発した。


 店の前のメニューでも見ていたのだろうか、たまにいるけれど最後まで言わせて欲しいと思うが、嫌な顔をしてはいけない。


「失礼いたしました。カフェモカでございますね、そちらの方はお決まりでしょうか」


「すみません、では珈琲を。砂糖とかはいらないのでお願いします」


 スーツの女性が一礼してから珈琲のブラックを注文する。


「では、カフェモカお一つと珈琲のブラックがお一つですね、少々お待ちくださいませ」


 メニューを無事に取り終わり、僕が去ろうと数歩下がったところで少しだけ声が聞こえてきた。


「それでは今後のスケジュールについてですが」


 メモを取り出しキャスケットの女の子にどうやら何か説明しているようである。


 この店で働いているとさほど珍しくない光景なので慣れてはいるが、どうやらあの女の子、芸能人であるようだ。


 それでキャスケットを深くかぶっていたのかと合点がいったことで僕はそそくさと注文を伝えにカウンターへと向かうのであった。


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