◆ドミニク
クレムがセンティリミア候爵と密談…脅し?に出かけたあと、
俺は日課の菓子処理を開始した。
近衛は王城の守護が任務なため、滅多に戦場に出ない。
戦場に出ないので不幸な事故、もとい戦死の心配も少なく王の近くに侍るため権力に近づきやすい。
おまけに全員貴族出身かつ、一定の実力持ち。
ちなみに出身だけで近衛になろうとすると現王の黒騎士、
…俺たちのあらゆる意味で師匠でもある”黒騎士アレックス”のシゴキが待っている(笑)
そんないい事尽くめの近衛騎士はモテる。
誰、と特定せず毎日大量の”近衛騎士宛”の菓子が詰所に届く。
それこそ全員で処理に当たらないと腐るほど大量に届く…。
他の近衛は知り合いと一緒に処理してるみたいだけど、
俺達の場合、誰が作ったか分からない物は自分で処理するのが原則。
殿下の口になんて絶対入れられないし、3人揃って倒れでもしたら殿下の命が危ない。
なので、俺の日課の一つが菓子の処理だったりする。
「ドム…相変わらずすごい菓子の量だな、羨ましい。」
「近衛騎士の特権だよ、食う?」
「やりぃ!ドミニク様々だな!」
まあ処理なんてひどい言い方してるが、この日課自体は嫌いじゃない。
菓子は好きだし、こうやって別部隊の連中との交友のきっかけにもなるし。
もっとも、菓子で釣られるのは下級貴族あたりまでかな。
休憩中は近衛騎士の白に金縁の制服を着ていないので、下級貴族もしくは平民と勘違いされる。
そのせいか、俺自身と面識がない上級貴族は見下した目で見てくる奴もいる。
あれだな、よく春に見かける城勤めの初任給で珍しい菓子を大量に買う平民に見えるんだろう(笑)
「何なんだあの女は!」
「落ち着けって、アイザック。」
「なんだ、モテモテのアイザックもついに黒星か?」
アイザック…あー、黒獅子の副団長ね。
憩いの場で何騒いでるんだが…あー、読書中の公爵様が睨んでるぞ…。
「あれが本当に伯爵令嬢か?あのハルディリートの!」
「…お前ハルディリート令嬢に手出したのか!?」
「命知らず、あの一族を敵に回したら生きてけないぞ?」
正しくその通り。
あのチート一族は毎回必ず王家と外戚になる上に、王の側近との婚姻しまくり。
しかも当人の能力もあれだからな…無駄な野心とかない一族で本当によかったよ。
「ふん、あの娘ならハルディリートも手を焼いてるだろう。
噂じゃとても嫁に出せないから社交界デビューもままならなかったそうだからな。
いくらハルディリートと縁付きになる為とはいえ、厄介な娘を押し付けられたものだ!」
「誰が厄介だって?」
一瞬だけひるんだ様子を見せたがそれはすぐ傲慢な笑みに変わる。
ハルディリートの関係者かと思ったら、自分より年下の…言いたかないけど子供に見える俺だから安心したんだろう。
おまけに今はいつもの制服の下に着てる私服だからなー、俺舐められ過ぎ(笑)
「誰なんてわかりきった事だろう。
ハルディリートのクレメンタイン嬢だ。
まるで平民のように外で食事し、男を立てるという事を知らない傲慢な小娘だ。」
「立てようのない男をどうやって立てるんだ?」
クレムが傲慢なのは認めるけど、この男に言われるほどひどくないぞ?
つーか傲慢そのものなのはこいつだよなー、実力が伴わない分たちが悪い。
「き、き、貴様!俺を誰だと思ってそんな口を聞いている!」
「誰って、自分が振られたからって令嬢を悪しざまにいうクズ野郎だろう?
つーか騎士の癖に外で食事できないって、お前実は男装の麗人とか?深窓の令嬢?」
「貴様!平民風情が!」
「アレックスやめろ!ドミニク様だ!」
友人?取り巻き?まあ、どっちでもいいんだけど。が、青い顔して止めに入った。
確か…サンディ子爵の三男だったかな。
第三王子の派閥だから純粋に取り巻きかな、それとも鞍替え?
あー、でも今更第二王妃のいない第二王子の陣営行っても旨みないだろうしなー。
「残念な頭…候爵の跡取りの癖に伯爵家の跡取りも分かんないんだな。」
わりと本気で頭悪いな。
うちの国は他の国に比べて上級貴族が少ない上に、
初代国王の時代から増えてないから跡取りぐらい暗記が当然だよな?
…それとも俺が伯爵令息に見えないとか言いたいんだろうか。
「ドミニク様…?貴様いったい…。」
「貴様貴様五月蝿い。
はじめましてかな?黒獅子騎士団副団長アイザック・レオン・アリエル候爵令息。
俺は近衛騎士隊長ドミニク・エンディミオン・コーラスタ。
ああ、父はコーラスタ伯爵だって言わないと分からないか?平民に見えるか?」
「伯爵…ふ、ふんたかが伯爵風情だろうが!」
うわー、馬鹿だクズだ、アホだ。
今こいつの頭の中で候爵>伯爵ってだけで判断した、絶対。
正直周りの子爵たちの方がまだ使えそう、
この馬鹿の発言に真っ青になってるってことは俺の背景理解してるんだな。
「お前の頭が悪いのは仕方ないけど、クレムの悪口はやめろよ?
俺の弟分に勝てると思ってんのか?ああ、”黒騎士の粛清”待ち?」
黒騎士の粛清、この一言で恐ろしいぐらい場が静まった。
第二王妃の死因である黒騎士の粛清は第二王子派閥には禁句だったかな…いい気味だ(笑)
「…じゃ、忠告はしたからな?」
本当なら妹分なんだろうけど、どこかで俺はクレムを弟と感じる、性別以外の部分で。
あっちも俺を弟と思ってそうだが(笑)
実際7歳から一緒に育てば実の兄弟より兄弟らしい。
そんな身内同然の存在を馬鹿にされて黙っていられるほど俺たちは優しくない。
まあ、あいつの場合気に入らなければ自分でどうとでも出来るんだけどな(笑)
「誰が弟よ?」
食堂を出た途端、不満そうな声がかかる。
俺がいつも羨ましいと想っている黒に赤縁の特別仕様の制服を着たクレムと目が合う。
気配を感じたからいつ出てくるかと思ってたんだが、会いたくないのか?
「お前さー、あれ放置してていいのか?噂ってめんどいぞ?」
「それならもう済んだ。」
「…忠告無駄になったか。一王聞くけど、”現”候爵達のほうは?」
「次代については、こちらの警告を聞いたくださるそうだから、今まで通り。」
「なるほどね、おつかれさん。」
可哀想どころか残念とすら思わない俺って薄情だなー。
まあでも、殿下の時代に害悪になる能無し連中はいらないし、問題ないか。
本当に、いくつもある騎士団の副団長と一つしかない近衛騎士隊長の重要度の違いとか、
第一王子の筆頭家臣の座とか、公爵の甥だとか…そういう背景価値理解できない無能はいらないよな?