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ちょっと黙れ

先日決まった婚約者は騎士団の花形である。

もっともあれだけ高条件で人気がないとなれば、本人の人格を疑うレベルだが。

過去に恋人一人や二人いたとしても別段気にしない。

我が天使が読んでいた巷で大人気の娯楽小説にも、

突然の出会いで恋に落ちた男女のどちらかに、-両方の場合もある-恋人がいて別れる手間を書いた話はいくつも合った。


だが、婚約の話を持ってきたのは現アリエル候爵。

少なくとも結婚するにあたって邪魔になる恋人の始末ぐらいつけるのが筋じゃないか?

あるいは父親の持ってきた話に乗り気でなかった?だったらその場で断れよ。

口約束でも親公認で婚約は済んでいる。

あとは王家に許可を頂き、次のパーティあたりで婚約者としてエスコートされれば周知のものとなる。

が、その王家の許可を頂く予定-王様に会うには予約して許可が必要-が決まった途端にこれはないだろう?


一組見目麗しい男女が互いに手を取り合い、見つめ合っていた。

パーティの最中に城の東屋で!

「リリィ…どうして俺を避けるんだ。」

「アイザック様…私達では駄目なのです。

あなたが候爵家の跡取りであり、私がしがない男爵家の娘である限り。」

「身分なんて、確かに君は下級貴族である男爵だが、下手な令嬢よりずっと教養に溢れてるじゃないか。」

「いいえ、いくら教養を身に着けようと身分には勝てないのです。

だからアイザック様も伯爵令嬢とご婚約なされたのでしょう?」

「違う!あれは父がどうしてもと…。」

「アリエル候爵様は私をお認めにはなりません。

たとえ社交界に出れないような変わり者でも、

ハルディリート伯爵のご令嬢である限りその方を選びます。」

「それは…。」

「噂に聞くハルディリート伯爵令嬢は土のような髪色に草のような瞳で、まるで森のようだと聞きます。

アリエル候爵様が特殊好いらっしゃる金の髪でも、青の瞳でもありません。

それでも、アリエル候爵様はハルディリート伯爵令嬢をお選びになるのです!」

いきなり大きな声を上げた思ったら、あとは鳴き声と恨み言?

それ以上観察する気力がなかったので、侍女に会話内容だけ聞き取るよういいつけその場を後にした。


なんという茶番劇だろう。

リリィと呼ばれた女はその後も自分は身分が、相手は身分しかない相手と婉曲に言い続けていたらしい。

左側だけに青い花を付け、流した状態の銀の髪は癖もなく上等。

遠目なので、瞳もはっきり見たわけではないが、どうやら青目。

なるほど、確かに私のようなくすんだ茶髪や、色の薄い緑の瞳より好まれる色合いだ。

侍女の評価ではありふれた美人。

国が長ければ長いほど貴族に美形が溢れるのは世の常、つまり一般的な貴族女性か。

「お嬢様、こちらを」

件の令嬢との会話を報告した侍女が手に持っていた紙の束を差し出してきた。

てっきり聞き取った会話を書いた紙かと思えば、令嬢の身元がかなり詳しく書かれていた。

どうやら聞き取っている間に、別の侍女に身元を探らせたようだ。

あれからまだ半日しか経っていないのに。

侍女の有能さに私は意識せずとも口角が上がる、

私付きの侍女達も王宮にて私の手足、あるいは目となり奔走した日々は無駄でなかったようだ。


リリィ・アンセルム男爵令嬢。

男爵家の三女で、アイザックと同じ今年25歳。

姉二人とは母親が別で、センティリミア候爵令嬢の乳母の娘。

現在母親は死亡、センティリミア候爵令嬢の侍女を務める。

有能で理知的な美女というのが周りの評価。

また、父親であるアンセルム男爵はすでに三人目の妻があり、娘は放置。

三人目の娘の持参金を用意できなかったため、結婚させる気がないらしい。


「ねえ…。」

「「はい、お嬢様。」」

「これって行き遅れ確定だから恋人を泣き落しで落とそうと?」

二人の侍女はお互い一度だけ視線を交わせてから、微笑んだ。

あ、やばい容赦する気ないぞこいつら。

「そうですね、25歳では後がございませんもんね。」

「取られそうだから惜しくなっただけじゃ?だって12歳頃から付き合ってますよ?」

「…幼い頃からモテる男に言い寄られて理想だけ高くなった典型?」

「うーわー、最悪。」

「あなたも気をつけなさいよ?

男なんて若い頃にきっちり躾けないとフラフラする生き物なんだから。」

「はーい、さっすが先輩!伊達に旦那尻に敷いてませんね!」

「入婿なんだから当然です。」

「さてと、それでは、私たちのお嬢様に喧嘩を売った痴れ者の処罰はどうしましょう?」

「アンセルム男爵に釘を刺しますか?

叩けばホコリが出る身でしょうから、三日もあれば弱みを握れますが。」

ものすごい楽しいそうに、いい笑顔で言い切ったよ!

二人の侍女の容赦なさに思わず天を仰いだ。

もっとも、この二人の容赦のなさは私の自業自得なんだろうけど。


とりあえず男爵令嬢の件は保留。

私のほうにまで文句言ってくるなら対処、それ以外はアイザックに任せる。

その決定に侍女はかなり不満そうだったけど。

まあ、自分が仕えてる主人が”身分しかない令嬢”扱いされたんだしね。


それより問題なのがセンティリミア候爵令嬢。

父親であるセンティリミア候爵は第一王子派閥の人間で、令嬢も王太子妃第一候補。

実際センティリミア候爵は王子を第一に考えるし、人としても出来た人物だ。

令嬢には会ったことはなかったけど、あの、センティリミア公爵の娘ならって思ってたんだけど…。


会ってしまったのだ、昨日のパーティで。


「あら…噂より冴えない容姿をしてらっしゃるのね。」

緩やかにウエーブした濃い金の髪に、王家の蒼に最も近い色鮮やかな青い瞳。

ドレスの上からでもわかる豊満な肢体に、白皙の肌に気位の高そうな表情が似合う美貌。

およそ外見だけなら絶世の美女の口から漏れた言葉は完全な侮蔑だった。

「ハルディリート伯爵の奥方は氷の王女と呼ばれる美女でしたから期待していたのに。

…あなた本当にハルディリート伯爵令嬢?それとも侍女の方だったかしら?」

「エリザベート様たら、侍女がこんな豪華なドレス来てませんわ。」

「仕方ないですわ、誰もがエリザベート様のように美しく生まれるわけじゃありませんもの。」

取り巻きと思われる令嬢は金髪か、銀髪、さらに目は全員青い目ばかりだ。

噂というから初めて会うんだろけど…いい加減名乗れよ。

「あなた…私に挨拶もないの?」

一応位の低い方から挨拶するのが礼儀だけど、初対面の場合は紹介者があってのルール。

知らない相手に自分から話しかけたら自分から挨拶するのが普通なんだけど?

「まあ、エリザベード様に挨拶もないなんて!」

「容姿だけでなく頭のほうも冴えないのですね。」

うん、このタイプの人間嫌い。

あの第二王妃がもろこのタイプで取り巻きも…無視しようかな。

「まあ、いいわ私心が広いから許してあげる。

それより、アイザックと婚約したというのは本当なのかしら?

本当だとしても破棄して頂きますけど。」

は?この女何をいきなり言い出すんだんだ?

「アイザック様となんて、全然釣り合いが取れませんわ。」

「ええ、こんな土色の髪より、リリィの銀髪のほうが断然お似合いですわ!」

リリィって誰。そこの女はエリザベードだから愛称でもないよな?

「いいこと、速やかにアイザックとの婚約を破棄しなさい。

私は次期王妃となる候爵令嬢なのよ?

あなただけでなく、あなたのお父様も無事ではすまなくてよ?」

言いたいことを言ってすっきりしたのか、派手な令嬢は取り巻きを連れて去っていった。

結局私は一言も言葉を発していないんだが、頭大丈夫なのかな、あれ。

その後、なんだか頭痛い気分だったので、

人が滅多にいない東庭に涼みに行ったんだけど…そこで二人の逢引を発見する私は運が悪いんだろう?


拝啓、私達に生き残り方を伝授してくださった師匠、アレクサンダー子爵。

ちょっと黒騎士の権限でセンティリミア候爵呼び出しておいてください、私が行くと逃げそうなので。

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