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◆ディートハルト

私が彼女と初めて出会ったのは件のパーティ。

殿下の書いた、彼女の姉が主役のシナリオで”雀”を黙らせる役だった。



パーティ会場は阿鼻叫喚の声が響いていた。

クレムの正体を知らなかった者の反応は本当に無様だ。

ひと握りの上層部しか知らなかった暗黙の了解とはいえ、

王の側近がこぞって敬意を払う意味を考えないあたり考えが甘い。


客観的に見て、クレムは綺麗な外見をした人間だ。

髪や目の色がありふれている、女性的な魅力に乏しいと見る目のない奴は言う。

確かに濃い茶色の髪や、薄い緑の目は珍しい色ではないが、

髪艶は間違いなく今まで見た中で最上であり、胸元まであるのに一度も絡まったのを見たことがない。

それに、国によって好まれる色が大分違うのだから、疎まれる色より大分いいだろう。

我が国で最も好まれる金髪は、

淡い色であるほど魔力を持たない証として魔法を主体とする国家では疎まれる。


女性にしては高い身長も殿下との差が顔半分ほどあるのだから十分だ。

何よりクレムの体つきは余分な物を競り落とした容姿をしている。

令嬢のドレスというのは、案外強調する部分と隠す部分がはっきりしている。

コルセットで締め上げ、必死に肉を寄せて胸元に谷間を作らないと着れないのが普通だ。

クレムはそれを一切矯正せずに着れている。

下品なほど強調しないと気づけない節穴どもには、よほどクレムが中性的に見えるのだろう。


流れは殿下の考えたシナリオ通りに運んでいる。

殿下至上主義であるクレムが殿下の”お願い”を断る可能性もなく、

無事に黒騎士兼王太子妃の誕生だ。


至って問題はない。

はずだった、…私の隣に蒼い目をしたご令嬢がいなければ。






彼女を見つけたのはパーティが始まった間もない頃、

「内緒なのですよ。」

カーテンの影で隠れていたご令嬢。

目元が隠れるベールをしているので瞳まで確認できないが、

それを差し引いても、将来有望な少女。

恐らくデビュタントもまだの7、8歳くらいの子供は胸を張ってそんな事をのたまった。

「あのですね、お姉さまの晴れ姿を見るのです。」

「お姉さま…。」

「はい!お母様が今日はお姉さまの晴れ姿だって仰ったんです!」

「そう、それでお母様は?」

「内緒なのです!こっそり付いてきたんです!」

それはかなり不味いだろう。

原則デビュタント前の子供を連れてくる親なんていない。

法に明文化されていないから時折子供を連れてくる馬鹿な親もいるが、

大抵は親子共々白い目で見られて終わる。

「…君のご両親は心配してると思いますよ?すごく。」

あくまで子供の悪戯だというなら、このままこっそり返してやるだけの良心はある。

「いいんです!」

いや駄目だろう。

「だって今日は伯父様が招待してくださったんですもの!」

「伯父…?」

「はい!伯父様が今日は新しいお義兄様ができるから、

”煩わしい雀どもを黙らせてくれないか?”って仰ったんです。」

こんな幼女に何させる気だ伯父。

しかし、これが親族の企みなら邪魔する理由はない。

せいぜい子供を使った策略で恥をかけばいい、といつもなら思うんだが。

…どうもこのマイペースすぎる子供は放っておけない。

この子の親族が恥をかく分にはいいが、この子がさらし者になるのはいただけない。

「…ここに子供一人でいては危ないですよ。

目立たないところに連れて行って上げますから、おいで。」

そう言って手を差し伸べれば、何の迷いもなく手を取る少女。

後から思えば不思議なことだが、私はこの時この子を庇ってあげたいと思った。


「皮一枚程度の価値で五月蝿い!

第一その程度の容姿じゃ私の妹(天使)の足元にも及ばないわ!」

騒ぎの中央から、クレムの叱責が鋭く飛んだ。

先ほどから、

耳障りな女の自慢話と中傷ばかりで嫌気が差してきたところに、容赦のない一言。

さすが単独で竜帝を潰す騎士、美貌自慢の令嬢を皮一枚の一言で切り捨てた。

まあ、確かに皮一枚程度ではセンティリミア候爵令嬢の本性は隠せない…いや隠しているつもりなのか?

怒りに震える令嬢が声を荒らげようとした時、

「お姉さま!」

隣で大人しくしていた少女が歓声を上げて、クレムの元に走る。

深めに被っていたベールが風に煽られ宙に舞う。

少女の容貌が顕になったとたん、周りの声は一瞬で消えた。

妹を恐ろしいくらい溺愛しているクレムの身内の欲目など一欠片も意味を成さないほどの、

幼いながら完璧な美貌。

”煩わしい雀どもを黙らせてくれないか?”

ああ、なるほど。

この蒼の瞳の娘の前では美貌自慢の令嬢(雀ども)は黙らざるえないだろう。


その後何があったか割愛させてもらうが、

無事殿下の思惑が現実になり、クレム共々楽しそうにパーティを満喫していらっしゃった。









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