相手に合わせる気なんて一切ありません 前半戦
貴族の女性の武器は家柄、美貌、教養。
日頃から積み重ねてきた交友関係、最新の情報を駆使して足の引っ張り合い。
失態を重ねれば社交界から退場か、はたまた壁の花か。
男性と同じくらい…夫すら利用することを顧みれば女性の戦いのほうが狡猾。
そんな舞台に、今私はいる。
貴族社会において、中程度の家柄、埋没するような平凡な容貌、女性として可もなく不可もない教養。
前回のパーティですら誰とも友好築かず、元から友人と呼べる女性もいない。
政治、軍事関係の情報には精通しているが、女性の流行やら噂には興味なし。
戦場なら武器の一つ、短剣すら持たずに敵に囲まれているような状況だが負けるつもりはない。
好きなように喚けばいい、私は相手の武器に合わせて戦うなんてしない。
「聞いてますの?」
「いいえ?…あんまり同じことばかり言うので聞き流してる最中です。」
「なっ…!私は親切で言って差し上げていますのよ!
殿下のような神々しい方の隣にあなたのような地味な小娘がいては殿下が可哀想ですわ!
それにあなた自身の冴えなさも周りの方々に印象づきますのよ。
あなた程度では大した殿方は釣れませんでしょうけど、行き遅れと笑われてもよろしいの?」
何が”よろしいの?”だ
本当に親切な人間は嘲りを隠さない笑顔で侮辱なんてしてこない。
それにしても”釣る”か…結婚って結構待ち伏せ戦法みたいな問題なんだなー。
目の前の令嬢…件のセンティリミア嬢と取り巻きは、殿下が陛下に呼ばれた途端、私を囲みずっと囀っている。
ここで殿下が帰ってきたら面白い事になるかと好きにさせていたが、正直鬱陶しい通り越して殺意が沸く。
比喩でなく首をすぱっと…。
まあ、流石に泣きそうな顔でこちらを見てるセンティリミア候爵―ドムに捕まっているのでこちらに来れない―の手前止めておくが。
今後令嬢の縁談に差し支えが出るくらいにはその醜悪な本性を晒してもらおう。
先日の警告ですでにセンティリミア候爵家の次代は令嬢に甘い従兄でなく、仲の悪い従弟に内定。
元々娘に政治能力がないのを理解していた候爵が、弟の息子達のどちらかを跡継ぎにと育成していたのだ。
順当に行けば兄の方が継ぐはずだが、令嬢に甘く性格的に同類な兄のほうでは馬鹿な真似をする可能性がある。
建国から続く上級貴族が一つもお取り潰しなっていない事から、
結束の強い国と周辺諸国から認識されているのに、こんな馬関げたことでそのステータスを捨てる気はない。
ついでに言えば、アリエル候爵のほうにも次代の話をしたんだが…。
「私はそもそもあれに候爵家を継がせる気はありません。」
…なんで私に縁談持ってきたのかすごく問いただしたくなった。
まあアリエル候爵家は先代の候爵があれだったから、庶子も合わせると両手の指が足りなくなるぐらい兄弟がいるらしい。
そのうちの誰かに継がせる予定だったのかな?と思って話を終わらせたんだが…。
先ほどのラヴィの様子を見る限り、どうも彼女が継ぐ予感がする。
アリエル候爵家は武人を多く輩出する家柄で候爵自身も若い頃は近衛騎士だった。
公爵家を継いだ時に王宮を辞し、領地を治める事に集中したという経歴。
うちの部隊は別名裏近衛(笑)
部隊名ないはずなのにたまに妙なあだ名をつけられる…どうせなら正式名称寄越せ。
要するに王族の身辺警護が主な仕事の部隊。
ラヴィって父親経歴被ってたんだなと思ったら、あとは芋づる式に未来予想ができたよ。
個人的にこのまま結婚、即領地帰還はやめてほしい。
ただでさえ少ないうちの部隊の、それも隊長格が急にいなくなるな!
こうなったらラヴィの結婚相手の政治能力に期待するよ!ラヴィが現役続けられるように!
「ですから!そんな荒れた肌でここにいて恥ずかしくないのですか!」
…あれ?まだ続いてたの?
「髪だって汚れた茶色、泥のようですわ。
私の太陽の如きと謳われた髪とは大違い、同じ髪扱いして欲しくありませんわ。
そういえば殿下の唯一の欠点は髪色よね、金の髪が多い王族のなかで黒髪なんて…。
案外ご自分の髪がコンプレックスであなたみたいな連れてるのかしら?」
「…はあ?」
欠点?今この女欠点なんて言いやがった?
不敬罪とかそういう問題じゃない!殿下の美しい宵闇色の髪を侮辱するなんて!
「あら図星かしら?
でも私寛容ですから、殿下の欠点の一つや二つくらい目を瞑って差し上げますわ。
それこそ美しい私を娶れば子の代は安心でしょうね。」
「死ね。」
「…え?」
「皮一枚程度の価値で五月蝿い!
第一その程度の容姿じゃ私の妹の足元にも及ばないわ!」
何度も言うが貴族は美形が多い。
正直”絶世の美女”なんて言葉がありふれた褒め言葉になるくらい!
だからこそ殿下は美貌なんて興味ない!それこそ自分の容姿すら専属侍女に任せきり!
それなのにわかったように言うな!
”王家の安心”なんて言える容姿は殿下と同じ”蒼”を持つ私の妹だけなのに!
「お姉さま!」
天使の声が聞こえた。
悲鳴を飲み込むような騒めきと、その後の静寂。
髪も、瞳も、肌も、顔の造形も、その仕草すら誰ひとり叶わない完璧な娘。
教典の序盤、この国で最も簡単な文章すら読めない教養を一つも持ち合わせていない幼子とてわかる高貴さ。
いやもしかしたら無知故に、人間ではないと思うかも知れない。
金とも銀とも呼べそうな白金の髪は、正しく月光を編んだような艶を放つ美しい髪。
たかが、濃い金の髪がよく評される”太陽のような”程度では到底勝ち目がないのは一目瞭然。
なによりその瞳の”王家の蒼”を侮辱できる人間はこの国にいない。
クラウディア・ドリス・ハルディリート伯爵令嬢。
…わずか7歳にして、この国で最も美しいと言葉なく肯定された瞬間だった。




