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舞台 開演

第一王子の妃候補、数日前までそう言われていた娘たちの顔色が一人を除いて悪い。

別に候補から外れたからといって何か宣言される訳ではないが、父親の態度で大抵の令嬢は理解する。

今まで一度も婚姻の話をしなかった父親が、いきなり縁談を勧めるのだから可笑しく思わないわけがない。

そして候補から外れた家は恐ろしいほど早く縁談をまとめる。

まだ候補から外れて3日目だが、すでに5組の婚約が王に報告されている。


そんな中、候補の中でも3番目と噂されていた令嬢だけが普段通りだった。

彼女は候爵令嬢でありながら、王宮において私の直属の部下を務める頼りになる存在だ。

外見は北の辺境伯爵令嬢だった母親に似たのか色のなさすぎる肌に、凍ったように動かない表情。

青の目に、殿下と同じ黒髪…、

本当の黒髪を見たことのある私からすれば二人の髪色は濃い紫に見えるが、世間では黒髪と評される色だ。

如何にも頼りがいのあるクールな女性といった雰囲気の彼女だが、意外と中身はあれだったりする。

私としては彼女に殿下の妃を務めてもらいたかったのだが…。


「アレクシス様、銀と紅石、黒銀と蒼石をあしらった髪飾りがありますがどちらになりますか?」

「…なんでお前が着付けてるの。」

なぜか、滅多に呼ばれないセカンドネーム(ファーストは男親、セカンドは女親が名付けるのが慣習)

で呼びたがる部下は目だけギラギラさせて私の衣装を整えている。

「アレクシス様を着飾る権利を勝ち取ったからです!」

「お前ら仕事中に何してたの!?それよりお前なんでドレスじゃないの!」

そう!なぜ殿下の妃候補として今日のパーティで主役を務めるはずの人間がドレス来ていないの!

「今回のパーティには出席致しません。

…アレクシス様は誤解なされているようですが、

私は他の候爵令嬢を牽制するためだけに王家に名をお貸ししていただけですから。」

「初耳なんだけど?」

「アレクシス様は腹芸を好まれませんでしょう?

国王陛下の真の御意向を伺っているのは殿下とディートハルト様だけと伺っております。」

うーわー、陛下ならやりそう。

別段嫌われてる訳じゃないけど、姪だからって遠慮がないんだよね。

母上が言うには、威厳ある王様はフェイクで実際はかなり昔から周りを困らせるトラブルメーカー。

だからってその悪戯対象に姪を選ばないで欲しい…。

「アレクシス様。」

「…?ラヴィどうしたの?」

声に感じた違和感はどう判断すればいいのか分からない。

単純に真面目なというより、どこか懇願も混じった不思議な声色、初めて聞く声だ。

「私は何があろうとアレクシス様にお仕え致します。

ですからどうか、変わる事を恐れずに殿下の望んだ通りに…。」

「何を言っているの?

私は、何があっても殿下にお仕えするわ当然でしょう?」

「そうでした、要らぬ心配でしたね。」

そう、私は殿下が何を望もうが叶えると決めた。

たとえ不幸な結末しかなくても。


「行こう、クレム。」

「御意。」

殿下が私に手を差し出し、私が殿下の手を取る。

殿下に使えて11年間、いつも手を差し出すのは私の仕事だった。

けれど今日は違う、男が女をエスコートする私に取って未知の舞台へ赴くのだ。

不安などない、あるのは未知の舞台への期待。


勝ってみせましょう殿下。

どんなに有利な舞台でも油断せず、不利な舞台でも諦めず。

あなたに絶対の勝利を捧げます。

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