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敵か仲間か  作者: Kentucky
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豊田京介 6

200X年 8月23日 ドイツ ヘッセン州 ジングリーザー湖


 早朝、皆揃って小屋を出る。小さな小屋だが泥棒対策は厳重だ。地下へ続くエレベーターは床材と同じ板で塞がれ釘を打ち付けられた。小屋の出入り口は一般的な錠を設けられたが、その両端にヴェルナーの人形と魔法陣のようなものが描かれた。ヴェルナー曰く「これが意外な効果を発揮する」そうだ。一通りの施錠が終わるとワゴンに乗り込みシュテファンの運転で発車する。

 車を東に走らせて20分くらい経ったとき、シュテファンが舌打ちをした。ラジオから流れる交通情報を聞いてのことらしい。

「アウトバーンA5にのってフランクフルトに向かおうと思ったんだが…事故渋滞らしい。なんでもトレーラーが横転して中身が散乱したんだと。別のルートで行くから西に向かうぞ。」

 シュテファンがそう言い、車の進行方向を変える。西の方、アウトバーンB3にのるらしい。シュテファンにとっては大きな誤算だったようだが、皆にとってはどうでもよかった。時間までにフランクフルトに着ければいいのだから。車の中では皆が別々のことをしている。タニアは激しい二日酔いでダウンしたまま紙袋を片手に俯いており、ハインリッヒは携帯ゲームを、ヴェルナーはブツブツ言いながら人形を作っている。車はアウトバーンを南へ走り出す。

 どこまで行っても畑しかないB3をひた走り1時間強経ったあたりで「A5 Basel/Frankfurt/Wiesbaden」の看板が目に飛び込んでくる。そろそろ予定していたルートに合流するようだ。A5に合流した途端、シュテファンが鼻歌交じりで運転しだした。

「おいみんな!予定のルートに合流したぞ!あとはここで飛ばせば…」

 ミラー越しで車内を確認したシュテファンが言葉を途中で切った後、ハンドルを強くたたく。

「てめーら、寝てんのかよ!もういい!寝てろボンクラ!」

 シュテファンが怒鳴ったが誰一人として起きない。車は速度を速めてA5を南下していく。市街地に入って行くほど蜘蛛の巣のようになっていくアウトバーンを迷うことなくフランクフルトに向かって車を走らせるシュテファン。その眉間には深く皺が寄っている。


 200X年 8月23日 ドイツ フランクフルト マイン川沿い


アウトバーンを降り市街地を抜け、マイン川にかかるアルテ橋の袂で車が止まる。ブレーキの衝撃で皆目を覚ます。

「よし、みんなここで降りてくれ。俺は車をどこかにとめてくる。」

 シュテファンの労をねぎらうように一人ひとり肩をポンと叩きながら降車していく。車のスライドドアを閉めると、そのまま車は橋を渡って行った。タニアが蒼白な顔をあげながら

「さあ、私たちはこっちよ。行きまし…ヴォエエアァァァァ…」

 と、紙袋に吐き戻しながら袂の交差点を右に行くように促す。ヴェルナーがすかさずペットボトルの水をタニアに差し出す。受け取ったタニアが一気に飲み干す。それを見ているハインリッヒはケタケタと笑っている。

「ハインリッヒ、殺すわよ?」

 笑うハインリッヒにメンチを切るタニア。一旦は笑いを止めたがまた吹き出すハインリッヒ。この二人は仲がいいのは悪いのか本当にわからない。

 200メートルほど歩き、博物館の丁字路を右に曲がり路地を行く。三角形が三つ並んだような建物と広場に行き着く。

「トヨタ、ここはレーマー広場って言うの。このギザギザ屋根の建物はフランクフルトの市庁舎よ。観光地の少ないフランクフルトだけど、ここは古い建物が残ってるからそれなりに見られると思うわ。」

 ここでシュテファンと落ち合う予定になっているので、しばらく休憩することとなった。陽は高く昇っておりじりじりと暑い。近くに自動販売機はないかと思い見回してみたがそれらしいものはない。広場の端っこにワゴンが出ており、そこで水を買うことにした。天秤と剣を持った女の人の像があり、その周りにベンチがあったのでそこに腰を掛け水を一口飲む。広場の形に切り取られた空に浮かぶ小さな雲がゆっくり流れていく。

 かれこれ20分くらいボーっとしていただろうか、遠くの方から呼ぶ声で我に返る。

「おーい、トヨタ!そろそろ行くよー!」

 顔色のもどったタニアが手を振っている。その後ろでハインリッヒがゼーハーと呼吸をしている。ハインリッヒの背中を笑いながらシュテファンがバシバシ叩いている。

 レーマー広場を北へ抜けセント・ポール大聖堂に行き着く。レンガ造りの大きなカーブをもった建物の外壁をつたって歩いていき、南側の塔の真下に行き着く。そして塔に向かって左側の壁、カーブと塔の間の角で皆足を止める。するとタニアが

「みんな、下がって。」

 と、皆を下がらせて壁のレンガの一つに手をかける。レンガには何やら文字が掘ってあるようだ。タニアがレンガを強く押し込む。レンガとレンガの摩擦する音が聞こえる。

 ゴゴゴゴゴゴ…

 足元の石が下にさがっていき階段を形成する。

「さあ、早く行きましょう。30秒で元に戻るわ。」

 タニアがそう呼びかけると皆一気に階段を下りていく。少し降りるとそこからはらせん状になっていた。階段は思っていたよりも長く、時間的に3分くらい下って行った。徐々に湿っぽさが増していき踏み板はかなりビチャビチャになっている。シュテファンが照らすLEDの明かりがてらてらと反射している。階段を下りきったところで幅2メートルほどの坑道に変わった。坑道の両端には電球が等間隔でぶら下がっており視界の確保はされていた。タニアの話ではここは第二次大戦以前に軍の物資を運ぶための地下道として作られたものらしい。照明は当時のままで、国が管理していたものの維持が大変ということで一般企業に売却されたそうだ。その企業というのがこれから会う人たちだ。聞かされていた住所は大聖堂から南へ2キロほど行ったところだったので本当にここでいいのか心配になっていた。坑道を進みながらハインリッヒが四角い箱状のものを等間隔で壁に貼り付けている。本人は「気にするな」と言っている。20分くらい行動を歩いたところで格子状の扉が見えた。ハインリッヒがおもむろにハンドガンを取り出し扉のロック部分に向かって撃ちはじめる。しかし扉は外身が凹むだけでロックが壊れた気配はない。すると格子に小さな粘土のようなものを貼り付けそこにマッチ箱を押し付ける。

「よし、みんな離れろ。発破!」

 ハインリッヒがマッチ箱にむかって銃を撃つ。銃声とともに爆発音が坑道に響く。大量の煙が発生し、それをハインリッヒが上着で扇ぎはじめる。煙が晴れていき扉がひしゃげてヒンジで支えられるような形となって現れる。シュテファンが扉を蹴り破り、皆先に進んだ。それから5分ほど歩くき、太い配管や配電盤が設けられた開けた場所に出る。シュテファンがバックパックから大量の粘土を取り出し、それをちぎっては機械や配管に貼り付けていく。そしてすべてに金属の細い棒を差し込み、導線で繋いでいく。一通り繋ぎ終えると最後に残った線をバックパックから乾電池や配線が飛び出した箱状の物を取り出し接続する。一緒に腕時計を取り出し左腕に着ける。

「タニア、準備できたぞ。ずらかろう。」

 ハインリッヒの合図でタニアが坑道の天井に向かってリベレーターを発射する。その銃身からは弾頭がはみ出しており、弾頭は滑車になっている。放たれた弾丸は天井に食い込み留まった。タニアがリベレーターのグリップを分解すると、テグスが収納されており、その端にピアノ線を結び付けテグスを引っ張る。スルスルとピアノ線が上がっていき天井に到達する。次に一回り太いワイヤーを取り出しピアノ線に結び付け再び引っ張る。またスルスルと上がっていき、天井で止まる。タニアがワイヤーを昇っていき、滑車のすぐ横のマンホール蓋を押し上げ地上に出た。それに続いて皆昇り、最後に昇ったシュテファンがマンホールを閉める。降り立った先はビルの脇の植え込みの中、目的地のすぐ目の前だった。

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