第九話 臨の涙
『これは、二十年前の俺が破滅を阻止する、ということだと考えた。だから、この時代に君を連れてきたんだ。君が遺跡に入るか入らないかは、君自身の問題になってくる。そこは君が決めてくれてかまわない。だが、君の未来を平和にするためにも、君には挑んでほしい…。』
手紙を読み終わり、少し長い沈黙がおとずれる。
この異様な空気をやぶったのは、臨だった。
「あいつ!!なぜ私たちにはなにも伝えず、ひとりだけで…!!くそっ!この場にあいつがいればシバいてやったものを…!!」
臨の体は怒りで小刻みに震えていた。
その状況を隣でみていた夏輝は変な汗をかく。
(えぇ!?ちょっとヤバいって!!未来の俺が危ねぇよ!…あれ?この時代の俺って本当に何処にいるんだ??)
「なぁ、未来の俺って今どこにいるんだ??」
恐る恐るながらも、夏輝は臨に聞いてみる。
「………。」
臨は黙って顔を伏せた。
「……もう、いないのか…?」
黙っていた臨が、小さな声で話し出した。
「…行方不明…だ。だか、もういないだろうな…。」
伏せていた顔を上げ、視線は天井を泳いでいた。
「あいつは…自分自身の身に危険を感じ、何かあったときのために私にも手紙をかいていたんだ。…手紙には、俺の行方がわからなくなったときは過去の俺をつれてきて、さっきの手紙を見せろと書いてあった。」
臨は、視線を夏輝に移し、まっすぐな目でみていた。
「…考えたら、ますますわかんなくなっちまった。混乱してんだな、俺。…ごめん、時間をくれないか?…少し休みたいし、ゆっくり考えたい。」
夏輝は頭をかかえて臨に訴える。
その様子をみていた臨は、優しくうなずいた。
「…あぁ。いきなりのことで、まだ理解が追いついていないんだろう。この建物の三階のA室が空いている。そこを好きに使ってくれ。」
「わかった。…じゃ。」
夏輝はそう言うと、部屋から出ていった。
その姿を後ろから見ていた臨は、静かに涙を流した。




