第一夜「黒き鎧の男」
ダークヒーローものをずっと書きたいと思っていました。
勧善懲悪だけがヒーローの本質ではないと思います。
正義の真価、悪の定義を問う作品にしたいです。
拙い文章力ですが、よろしくお願いします。
この街にはヒーローがいる。
悪を裁き、街を守る一人のヒーローが。
だが、ヒーローは正義だろうか? ヒーローに倒されるものは悪だろうか?
勧善懲悪なんてあるのだろうか? 正しさとはなんだろうか?
昔からそうだった。
ヒーロー特撮を素直な心で見ることができなかった。
本当の正義なんて無い。あるのは作られた悪と見せかけの制裁だ。
そんな子供は大人になった。
大人になった今でも子供の時に感じたことを否定するつもりはない。
だが、大人になって探究心が生まれた。
テレビ画面に真実が無いのなら自分で探そうと思った。
二十歳になり、有村豊は新聞記者として有名な新聞社に入社した。
しかし、芸能人のスキャンダルや政界人の粗探しばかりをするばかりの毎日だった。
二十三歳、豊はフリーの記者になった。
生意気だとは分かっていたが、自分の探したいものを心置きなく調査し、記事にするにはこの方法しかないと思った。
そして、豊はこの街の影、この街のヒーロー「シャドウマン」に迫ろうと思った。
この街の影の守護者として犯罪者を裁く存在。
だが、シャドウマンはテレビ画面に映されるまやかしのヒーローとは違っていた。
悪を倒すのではなく、裁くのである。
彼はバラバラ殺人を起こした者は被害者と同じようにバラバラにし、
自殺と見せかけ殺すような巧妙な手口を行った者には、その状況と全く同じ状況を作り出し犯人を殺すのである。
必ず犯人の死体の側には犯人の犯した罪と、それを証明する何らかの証拠が置かれていた。
世間は彼について、賛否両論だった。
極悪非道、犯罪者を殺す犯罪者と、全く認めない者もいれば、
自らを汚し悪を裁く姿を賞賛する者もいた。
そんな影の存在であることから「シャドウマン」という名前が付けられた。
豊はそんな、血で塗られた存在である彼に興味を持った。
そして豊は目撃するのである。
汚れたヒーローの生き様と苦悩を。
第一夜
冬の風が冷たく突き刺さる夜。
豊はオフィス街を歩いていた。
その日の昼、そのオフィス街では殺人事件が起こったのである。
ある中小企業の受付嬢が何者かによって刺殺されていたのだ。
それも、何度も何度も胸や腹部に刃物で刺されてである。
「こういう残忍な事件にシャドウマンは現れる」
豊は歩きながら、事件の資料を見る。
事件現場周辺で、犯行時刻と思われる時間帯にその会社から走り去る怪しい男が目撃されている。
中肉中背、黒いライダースーツの男だったらしいが詳しいことは分かっていないらしい。
「彼は事件現場の近くで現れ、制裁を行うことが多い……。となると会社の裏路地か」
豊は夢中で事件の資料を眺めていた。
ドンッ
「うわっ! す、すみません!」
豊は誰かとぶつかってしまった。
事件の資料が道に散乱する。
ぶつかった相手は散らばった資料を集めてくれた。
「本当にすみません。夢中になっていて。前方不注意でした」
「…………」
「あの……どこか怪我でもされました、か?」
「いや。君、警察の人?」
「いえ、フリーの記者をやっています」
「なるほど。だからこんな殺人事件の資料なんか持っていたのか」
「ええ。まぁ」
「それじゃあ、気をつけてくれよ」
「はっ、はい。すみませんでした」
男は豊の横を通り過ぎていった。
「気を付けないと……。これじゃ今度は車とかに……!?」
豊は頭の中で今、ぶつかり通り過ぎていった男のことを考えた。
「中肉中背、ライダースーツの男」
今、自分とぶつかった男はその特徴と全く一致していた。
「まさかな」
豊は頭を振り、問題の会社の裏路地へと入っていった。
犯行現場であるこの会社の入口、ロビー付近は警察によって封鎖されていたが、裏路地の方は特に何もされていなかった。
カシャッ
カメラのシャッター音。
フラッシュで一瞬明るくなった裏路地は再び月明かりだけが頼りの闇に包まれる。
「一応、カメラに収めておかなきゃな」
「そんなところ撮ってどうするんだ」
「だ、誰だッ!!」
腕を掴まれ、背中に尖ったものが当たる。
「振り向いてみろ。あの女のように穴だらけにしてやる」
「あんた……さっきの……」
背中に感じる狂気。
冷たい風が吹いているにもかかわらず、汗がふきでる。
「僕は、警察じゃあない。あんたを、追ってるわけじゃない。事件について調べていただけだ」
「記者だろうが、警察だろうがァ……俺の周りを嗅ぎ回れちゃ迷惑なんだよ」
「頼む。あんたと会ったことは誰にも話さないから。放してくれないか」
「それは無理な相談だ。俺はもうお前にナイフを突きつけちまったからさぁ」
尖った感触がより強くなる。
「もうこのまま突き刺しちゃわないと気がすまない……」
心臓の鼓動が速くなる。喉が異常に乾く。
「た、頼むよ……。もうこの事件は追わない。約束する」
「ダメだねぇ。このまま穴開けてやる……ウッ!?」
突然、男の腕が豊を放した。
咄嗟に男から離れ、振り返るとナイフ男と、もう一人。
月明かりを背に立つその男は、ナイフ男より大きく、筋肉質で黒い鎧のようなものを着ていた。
ナイフ男の腹部からは銀色の刃物の先端が飛び出し、血が出ていた。
「うぅ……ううう……」
鎧の男は刃物を抜き、ナイフ男を突き飛ばした。
ナイフ男はよろめきながらも、鎧の男の方を振り向く。
「この、この野郎ぉ……!! てめぇは、シャ、シャドウマン!」
シャドウマンは一歩、ナイフ男に近づく。
「近寄るなぁ!! この殺人鬼!!!!」
ナイフ男はナイフを振り回し取り乱す。
自分自身も人を殺めたことを忘れて。
シャドウマンの腕がナイフ男の腕を捕らえ、動きを止める。
凄まじい握力なのか、ナイフ男の腕から骨の軋む音がする。
「あああぁぁあああぁあっ!!」
ドスッ
シャドウマンは再びナイフを腹部に刺した。
何度も、何度も、何度も。
ついにナイフ男は倒れ、息絶えた。
豊は足を震わせ、シャドウマンを見る。
顔を覆う仮面から唯一露出している目の部分が見える。
鋭くつり上がった目が豊を睨んでいた。
するとシャドウマンは何枚か紙をばらまき、豊に背を向けた。
そして、コツコツと足音を立てながら去っていった。