朝
いつもやってくるのに。
いつもいなくなるのに。
「?」
君がいない。
君がいない。
君がいない。
「……」
がさがさと揺れる葉。現れる細いライン。
「あ、おはよう」
起きてたんだね、と笑う君に抱きついた。
握っていたであろう木の実を落とした君は、俺の耳元で小さく笑った。
「いないのは、君なのにね」
「いなくなるのは、君だけどな」
君とはぐれた。
人ごみに紛れたであろう君を探すことに必死になっていると、女の子が話しかけてくる。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ああ、人を探してるんだ」
特徴を教えても、これだけ人がいては意味がないだろう。女性であるとだけ伝えると、女の子は泣きそうな顔をした。
「うそ、言わないで」
「どういうこと?」
「うそだもん」
屈んで、というように動く手に従って、俺は膝を折った。
手が、首を掴んだ。
力を込めた腕は震えている。少し、苦しい。
そんなに強くない力だな、と思いながらじっと見ていると、女の子が力を抜いた。
「うそちゅき」
噛んだことも気にしない女の子は、俺を睨んだ。水の膜が張っていた。
「うそつき」
俺は女の子の頭を撫でた。よく、子供は頭が大きいとは言うが、別に大きいとは思わなかった。それはそうだろう。小さな宝石を見れば、大きいとは思わない。
「うそつきだよ」
本物じゃない君には分からないだろうね、と言う。女の子は泣いていた。その涙は地に落ちると、からんと音をたてて金属になった。
女の子が走り去る。がしゃんがしゃんと、機械の音を鳴らしながら。
■世界の朝
あるべきものがなくて、
なくていいものがあった。