君
君に出会った。
君の笑顔に惹かれた。
君がいた。
「おはよう」
「おはよう」
空はまだ暗く、輝く金を纏っていなかった。目が覚めたら、なぜか君がいた。
「どうしているの?」
「いてはいけなかったかな」
「逆、だよ」
俺は君に抱きついた。か細く悲鳴をあげた君が愛しくて、腕に力を籠めると、仕返しと言わんばかりに腕をまわしてきた。
「ふふ、かわいい」
その笑顔に、俺は惹かれたんだ。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
鮮血を君につけてしまわないように、先に手を洗い流そうとする。だが、その行為を見た君が、まだ完全に洗い流せていない俺の手を取って、自らの頬にあてた。
「……」
しばらく好きにさせていようと思い、君の行動を静かに見守る。
君は、俺の手を頬にあてたまま、頬を摺り寄せた。さらに、口を開き、鮮血を啜るように含み取っていく。
「いやだな、それ」
君には俺の血を飲んで欲しかった。
二人で海岸の近くにある岩の上に座る。時刻は新たな1日が始まる頃。漣と共に、君の歌が小さくきこえる。
「この歌、君が教えてくれたんだよ」
「冗談。そんなに音程が高い歌は知らないよ」
二人で海岸の近くにある岩の上に座る。時刻は新たな1日が始まった頃。漣と共にきこえていた歌は、耳元にあった。
「はやく、おもいだして」
君の声は、いつまでもひとりぼっち。
■世界にたった一人の君
俺の知らない君。
君が知っている俺。
それゆえに、一人きり。