空
ふと、気になったものがあった。
「おーい、ちょっと乗っていかないか」
どうやら、船のようだ。聞くところによると、周りは全て青。鳥たちが水しぶきをあげながら羽ばたくという。
「ここの青はすごいぜ。なんたって、空と海の境界が分からねェからな」
そのとおりだった。境界線が、ない。澄んだ青色は、空の雲を映しとり、より空のようになっている。
俺はそんな海に、以前森で摘んだ花を浮かせた。
空と海が、切り離させた。
少女が浮いていた。ぷかぷかと浮かんではいるものの、ときに沈み、浮かび上がる。
「こんにちは、お兄さん」
「こんにちは、かわいいお嬢さん」
自分で言って、恥ずかしくなった。くそう、謎の敗北感。
「海って、浮きやすいんだって。でも私の場合、あんまり浮かばないの」
「何故?」
「人間じゃないから」
えへへ、と笑う少女がいた。
そんな彼女の目は、虚ろで空ろだった。
「お兄さん、寄っていかないか」
海の近くのレストランだった。
「お、夕方だ」
店にいた客が、皆一様に表へ向かう。そんな光景を、疑問符を浮かべながら見ていたら、店長がやってきた。
「この時間になるとな、空と海が完全に一緒になるんだよ」
太陽が沈もうとしていた。半分沈んだ太陽によって、空と海の模様が同じになり、境界線が薄く浮かび上がる。しかし、そんな線が気にならなくなるほど、それは美しかった。
俺は食事を済ませると、余分に代金を払って、人垣を避けながら次の町を目指した。
■世界にある空
一つしかないのに。
全ての人がもっていた。