自然
世界を探した。
俺だけしか知らない世界を。
「そこの坊ちゃん、リンゴはいかが?」
「ん、ああ、一つお願いします」
赤く熟したリンゴを一口齧ると、いつも食べるものよりも酸っぱいような気がした。つい顔を歪めると、おばさんはニヤニヤと笑った。
「ごめんねえ、このリンゴは酸味で有名なんだよ」
ほら、持って行きなと言わんばかりに二、三個それらを投げると、大きな声で次の客に声をかけていた。
俺は両手から落下寸前のリンゴをカバンに詰めると、再び齧る。
やはり酸っぱくて、また顔を歪めてしまった。
森に覆われた国。木漏れ日によって水が輝いている。
「坊主、ボランティアに参加しないか」
「はあ、ボランティアとは?」
木を植える。それだけ。ただでさえこんなに青々と生い茂っているのに、なぜそんなにして植え続けるのだろうか。
「そんなもん、未来のために決まっておるワイ。植物っつーのは、人間よりも生きるかもしれねえが、人間と同じ条件で生きてんだよ」
ま、あくまでワシの考えだがな、ワハハハハ!
老翁は豪快に笑い続けている。
俺は近くで生きている花を摘むと、老翁に気づかれる前に数多の木漏れ日を受けて歩いた。
風車はゆっくりと動き、綺麗に洗濯されたシーツはゆらゆらと翻る。
「いいところでしょう。夏は涼しいから嬉しいったらありゃしない!」
「へえ、冬はどうなんです?」
女性はにやりと笑う。
「冬はとても寒いよ。だが、ここの皆は冬を乗り越える方法をしっかりと理解している。だから、冬が来てもへっちゃらなのさ」
俺は女性の近くにある物干し竿に自分のコートをかけて、涼しい風を全身に浴びさせた。
■世界の中の自然
ありふれたものだけど。
いつも見るものと違っていた。