片想い
片想いはいつだって切ない。
どれだけ想っていても、その心はその人に直接言わない限り伝わらないものである。
僕は、このような片想いを数年している。その人は、小学校のときは一緒だったけど、中学ではバラバラになってしまった。どれほど悲しかったことか。
小学校のときは、毎日顔を合わせていたからその人に会うことも、その笑顔も見ることができた。だけど、中学は、僕は公立でその人は私立の中高一貫校だった。離ればなれになってしまった。
彼女とは、家が近所だった。しかし、学校が違うから帰る時間も違う。会う機会が少なくなった。
ただ、それでも何回か会うことができた。彼女が来てくれた。彼女がお土産を持ってきてくれたとき、バレンタインのとき、何か用件があるとき、彼女がやってくる。
堪らなく嬉しくて、会う度、長話をしてしまう。地元の中学の日常を話し、彼女の学校で僕らができないような日常を聞く。それだけで母親達の長電話のように話す。僕はそれだけでも全然楽しかった。彼女との貴重な時間を楽しまないわけがないし、嬉しくないわけがない。
バレンタインデーの日、彼女は手作りのお菓子を持って来てくれた。とても美味しかった。ただ嬉しくても切なさが大きい。何故なら彼女は、僕のことが好きなわけではないのだから。好きだと言ってくれても、きっとそれは友達としてだ。恋愛対象ではないだろう。
ある日、彼女を道で見かけた。彼女は、下校途中だった。僕は彼女と一緒に帰ることにした。
「部活帰り?」
「ううん。今日はたまたま帰りが早いだけ。あなたは?」
「僕?僕は、スーパーへおつかい。」
「そうなんだ。学校は?」
「もう卒業したよ。」
「早いね。おめでとう。」
「ありがとう。そういえば、卒業せずに進級するんだよな?」
「うん。ラッキーと言えばラッキーなんだけど、私は卒業して違う学校に入学する方が良かったな。」
「なんで?そっちの方がかなりお金かかるし、めんどくさいじゃん。」
「そうなんだけどね。なんか、そのまま進級すると何も変わらない気がするんだよね。」
彼女の顔が曇る。なぜ彼女がこんなことを言うのかは言わなくても分かる。彼女の学校は、中高一貫。つまり、高校から新しく入る学生がいないし、自分も同学年の仲間も転校しない限り変わらず高校へ進級するのだ。環境は、何も変わらない。そういうことなのだろう。
「あはは。ゴメンね。空気重くしちゃったかな。」
「いや、僕がその話を持ちかけたから。こちらこそゴメン。」
沈黙が出てくる。しばらく歩いていると、家が見えてきた。この帰り道だと、僕の方が早く着く。
「それじゃあ、気をつけてね。」
「うん。今度小学生のときみたいに遊ぼ。」
「ああ。春休みとかに。」
彼女は、手を振って歩いて行く。その後ろ姿は、やけに小さく感じた。孤独というコトバが当てはまるような様子。
僕は、自分と自分たちの関係を恨んだ。今から追いかけたい。でもその後に抱き締めることなんてできない。励ましの言葉を言いたいけれど、思いつかない。
部屋で勉強していると親から声をかけられた。彼女が来ているというのだ。僕は、部屋を飛び出して彼女の前に現れた。
彼女の用件は、お菓子を作ったから持ってきたとのことだった。
バレンタイン以外で貰うのは初めて。すごく嬉しかった。だが、そんな思いもつかの間だった。
「あのね、今度引っ越すの。」
え?なんて言った?引っ越す?
「どこへ?」
「市内だけれど、駅寄りになるの。」
同じ市内でも、離れてしまう。これじゃあ、今まで通りになんていけない。学校が異なっても関係を崩さずにいられたのは、キミと近所だからなのに。
「でも、きっと自転車で行ける距離のはずだから遊びに来てね。私もときどきこっちに来ると思うし。」
関係ないよ。キミと離れてしまうのは、僕にとって辛すぎる。ときどき会えたとしても、その回数はどれくらい?月に1回でも会えるの?前よりも会えないんじゃないのか?僕の近くにいないのだから。
「ねえ、どうした?」
そう言われるほど、僕はどんな顔をしていたんだ?彼女には僕の考えていることバレないように振る舞わないと。
「なんでもないよ。」
「そう?驚いた顔のような悲しそうな顔してたから。」
そうか。そんな顔をしていたか。そりゃそうだよな。想いを寄せている相手が離れてしまうんだもの。
「今度遊びに行くよ。だから住所教えて。」
「うん。あのさ、明日遊べる?」
確か明日は何も予定がないはずだ。
「いいよ。」
「じゃあ、10時にここで。」
「分かった。」
「私、帰るね。また明日。」
「また明日。お菓子ありがとう。」
「いえいえ。おいしいといいな。」
彼女は、笑顔で手を振って帰っていった。僕も笑顔で返したが、すぐに消えた。悲しくて、まだ想いを伝えていない自分に苛立って。だってこれじゃあ告白もしていないのに振られた気分じゃないか。多分、告白したとしてもダメなんだろうけど。
言うか?明日はきっと彼女と遊ぶ最後の日。僕の気持ちを伝えようか。
だけど、怖い。何が?振られるのが?違う。彼女との関係を崩してしまうのが怖いんだ。明日が最後だとしても、会いにいけばまた遊んだり話せたりできるかもしれない。でも、告白してしまったら、本当に最後になってしまうかもしれない。
彼女が作ったお菓子はクッキーで、プレーンと抹茶味があった。食べてみると甘くて美味しくて、でも抹茶味のものは苦く感じた。何故か涙が零れてきて、クッキーに当たりしょっぱくさせていた。
そして、彼女と遊ぶ日。夜はなかなか眠れなかった。緊張と期待が脳内を占めている。
まだ整理がついてない。告白するのかしないのか。まだ迷いが消えない。
そして、彼女がやってきた。かわいらしさもあるがクールなところもあるような格好。僕はそれに釣り合った格好をしているだろうか。多少は大丈夫だろうけど。
「こんにちは。今日は宜しくね。」
「う、うん」
「じゃあ、行こっか。」
僕の家から出発して駅前の方へ向かう。
ゲームセンターで遊んだり、お茶したり、彼女の買い物に付き合わされ荷物持たされたり、カラオケ行ったりと、デートのようでデートじゃないことをした。楽しいのに、どこかで悲しさや寂しさが残ってくる。君と過ごせる時間は、もうカウントダウンが始まっているんだ。
そして、僕の家へと戻ってきた。かなり長い時間遊んでいたらしい。ただ、感覚としては短い。
「今日はありがとう。」
「いや、こちらこそ。すごい楽しかった。」
「私も。買い物とかゲームとかいろいろできて、デート気分だった。」
「そうだね。デートみたいだったよな。」
「私に彼氏ができたらこんなデートばっかりかもね。あ、でも私にできるわけないか。」
「そんなことないよ!いつかできるって。」
その相手、僕だといいな。でも、無理かな。
じゃあ、バイバイと言われて彼女は帰る。
このまま帰られたら二度と会えない。二度と想いを伝えることも話すこともない。
どうする?伝えないといけないかな。いや、そうに決まってる。伝えないと!二度と会えないなら伝えなきゃ。僕の君に対しての想いを!
「待って!」
彼女が振り返る。僕は、彼女のもとへ駆け寄った。
「どうしたの?」
「ちょっと、忘れ物。」
「本当?私、何忘れちゃったのかな。」
「いや、君じゃなくて僕の方。」
「そうなの?何を忘れたの?」
「君に、伝えなきゃいけないこと。」
「なに?」
「あの・・・、僕・・・、ずっと・・・、好きだった。君のこと。」
「え・・・。」
だめだ。彼女の顔、まともに見れない。驚いているよね。ごめん。君にはそんな気持ちなんてないよね。
「あ、あの。どうしても伝えたくって。ほら、君引っ越しちゃうじゃん。だからせめて君がこの場を去る前に僕の想いを言いたくって。」
「・・・・。」
「ごめん。動揺してるよね。ホント、ごめん。言いたかっただけだから。知ってほしいとか付き合ってほしいとかじゃなくて。いや、できたら付き合いたいけど。あの、ごめん。じゃあ、気を付けて。今日は、とても思い出に残る日だった。ありがとう。」
僕は、俯いて歩き始めた。ああ、何という別れ方。恋の終わりがよくないな。
そんなとき、声がかかった。
「ちょっと、勝手に話をたたまないで!」
「え・・・。」
「あなたの気持ち、分かった。すごく、うれしいしありがたい。だから、ありがとう。でもね、惜しいな。」
やっぱ、だめだよな。
「・・・・。」
「遅いよ、言うのが。私、かなり待ってたのに。」
は、はい!?待ってた?
「ど、どういうこと!?」
「もう、すごく言いたかった。でも、あなたから言ってほしかった。それで両想いだって分かるから。」
「そ、そんなあ。でも、君から言えば良かったんじゃ・・・。」
「私から言って、付き合うことになったとしたら、なんか無理に付き合わせている感じがして。」
「そうなの?」
「そうだよ。じゃなかったら、わざわざお菓子なんてあげないし、バレンタインの日にお菓子もあげない。あなたのことがずっと好きだから渡していたの。だから、遅い。」
「ごめん。」
「許さない。どれだけ待たせたと思ってるの?」
「どれぐらいだろう?」
「あなたと知り合ってからずっとよ。」
それって、9年ぐらいか?僕と同じぐらいかな。
「9年?」
「もっと。」
そんなに!?僕よりも長く?
「じゃあ、何年?」
「11年ぐらいかしら。」
「僕より2年長い。」
「私の方が先に好きになっていたのね。」
「そうみたいですね・・・・。」
「これで、どれだけあなたに言われることを待っていたか分かった?」
「はい。すみません。」
「だから、許さないってば。」
「どんなことをしても?」
「そうね・・・。」
彼女は、考えるふりをした。何を要求されるんだ?ちょっと恐ろしく感じてきた。
「キスして。それで許す。」
き、き、き、キス!?な、なんと高度な要求を!
「やらないなら、一生許さないし、あなたと付き合いたくても付き合わないわ。」
やるしかないような発言をされてしまった・・・。
僕は、彼女に近づいた。あと少しで唇が触れてしまう。ちょっと恥ずかしい。
彼女は眼を開けている。
「ごめん。恥ずかしいから、目を閉じて。」
「えー。」
「お願い。ちゃんとキスするから。」
「分かった。」
彼女が目を閉じて、僕は、彼女にキスをした。僕にとってファーストキス。僕の好きな人が相手で良かった。嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。
初めて感じる感触に少し慄く。1秒触れただけで離れようとしたが、彼女は許さなかった。彼女の腕が僕の腰の後ろに回って、僕を離さない状態にさせていた。ずっと、触れている唇。塞がれている口。だんだん、息がもたなくなっていく。ちょうど、息が切れたところで彼女は僕を離してくれた。
「これでチャラにしてあげよう。」
彼女は満面な笑顔だった。こっちも笑顔になってしまう。
そして、彼女は僕に抱きついた。
「離れても、私のこと好きでいて。」
「もちろん。」
「そうじゃないと、私やっていけない。私も、あなたのことずっと好きでいるから。」
「分かった。」
「お別れじゃないよ。」
「うん。」
「絶対に、遊びに来て。」
「うん。」
「今度、どこかへ遊びに行くときは、あなたがリードして。」
「考えておく。」
「携帯、買ったらアドレス教えるね。」
「僕も。」
彼女は、僕は、僕に、彼女に問う。
「私と付き合ってくれますか?」
「僕と付き合ってくれますか?」
答えは・・・・『はい。』
片想いは想いを伝えなければ何も変わらない。
僕達は、片想いをしつづけ、本当は両想いだった。それに気づかせてくれたのは、想いを相手に伝えること。それにより、互いの気持ちに気付け、互いの関係が変わった。
片想いは、切ない。しかし、切ないという雲はいつか晴れる。または雨が降り、その場を去っていくのだ。




