第39話 失うもの、得るもの
俺は目の前の光景を見ているしか出来ない。
「……遅くなったね……早く治療してあげてね」
応急処置を施された奏歌を受け止め、我に帰る。
「お、おい………いないか」
俺は急いで家に入り、傷口を消毒し包帯を巻く。
幸い傷口は治癒術で穴は塞ぎかかっていた。
「何があったんだよ奏歌………」
みんなに奏歌の状況を知らせた。
「奏歌!っ………あたしが付いて居れば」
「………大丈夫だよ、見た目ほど酷い傷じゃないよ、ボクよりも可なり技術が上の治癒術が施された後もある」
伊吹が治癒術を傷口に当てて奏歌の看病をする。
夕夏は泣きそうな顔で奏歌の手を握るだけだった。
『…………コゾウ』
ブンも奏歌の頬に触れながら泣いている。
俺は部屋を出る、奏歌の姿を見るのが辛かった。
「クソ!何が直ぐに助けてやるだ!」
自分の不甲斐なさに久しぶりに泣きそうになる。
〜〜〜〜〜奏歌〜〜〜〜〜
『おい!起きろ!俺』
ほぇ?ボクが僕に話しかけてる?!
『言わなくても、何となく分かるだろ?』
うん、ブラック僕だね?
『おう!顔を会わせるのは初めてだな』
うん
『作られて日は浅いが、お前は俺に頼っている訳にはいかんぞ?俺の存在はあってはならないんだからな』
なんで?
『お前が俺に頼ってたら、本当の意味で輝達と仲間になれない』
そんな事!
『ある!安心しろお前の中で見てきたがお前が思ってるより皆お前の事を溺愛しているよ』
……そんなこと。
『お前に頼りされたいんだよ、もっと皆に甘えろよ!誰も迷惑だなんて思わないぜ?』
でも!
『せっかくお前が変われるチャンスだぜ?昔みたいな引っ込み思案は棄てろ!』
それじゃあ君は。
『俺はお前だ、心配すんな表に出てこなくなるだけだ、消える訳じゃねぇよ』
ありがとう。
『自分に言うな、じゃあな最後の仕事をしてから俺は消えるぜ』
元気でね。
『お前が元気ならな』
〜〜〜〜〜輝〜〜〜〜〜〜
俺は一晩、奏歌の隣に座っていた。
「ん……起きたか」
奏歌がゆっくり体をお越し俺を見つめる。
「丁度よかっぜ輝、俺の変わりに奏歌を支えてやってくれ」
「………分かっている」
「コイツは強くなるよ、俺が居なくてやっていける」
俺は無言で奏歌の頭を撫でる。
「おい!俺の時はするな!」
「変わらないだろ?」
ブラックは渋々承知し、撫でられる。
「コイツの事は頼む、最後に六年間楽しかったと伝えてくれ」
「ああ」
俺は最後に握手をした。
「あっ!輝!僕は?」
「消えた、ほら一週間寝てたんだ腹へったろ?セヨってやるよ」
以前の奏歌は絶対頼らなかったが、素直に手を取りおぶられる。
「メシ食ったら皆で花火大会行こうな」
「うん!」
俺にはお前の気持ちは分かるよ、昔の俺に似てるからな。
「なぁ、もっと頼れよ、皆そう思ってるからブラックも言ってたろ?」
「うん、またよろしくね」