キアラン 5
「ふう~~~っ」
この力を使うと、無駄に魔力をつかうんだよなぁ~。もっと楽にできればいいのに。
疲れたせいもあり、扉にもたれ掛かった。扉にもたれ掛かったまま、数十秒が過ぎる。
「さてとっ。そろそろいかねえと、本格的に怒られるわ」
もう少し休みたい所ではあったが、重い腰をゆっくりと上げた。
え~。どこだろう。たしか、少し古びた感じの木の扉だったよな。
さまざまな扉がある中から、待ち合わせの目印にしている木の扉を探す。
「おっ。これっぽいな」
俺が出てきた扉から百メートルほど先のところに、少し古びた木の扉はあった。
木の扉にはガラスの部分があり、そこをのぞいてみると反射をして、自分の顔だけが映る。その顔を見ると、一番目に入るのは目だった。右目は赤で、左目は金色という不思議な目の色をしていた。俺の知っている家族は皆、両目は金色である。俺にはそれでも別にいいと思っている。
そんな事を考えながらも、扉に少しもたれるような姿勢であいつを待った。
俺が待ち始めてから、数分が経った。
「……あいつ。珍しく時間護れてねぇじゃねぇか…。自分が五月蝿いくせによう……」
あいつがいないかと思って、辺りを見渡すが、周りには人影は無い。ただ、扉が並んでいるだけである。そのため、静寂が辺りを包んでいた。
……おいおい。遅すぎるんじゃねぇか!
眉をひそめて再び腕時計を見ると、待ち合わせ時刻から数十分も経っていた。
「ったく。早くしろよな……」
ん?
俺がそう呟いたときに、さわやかな風に乗って、誰かの声が聞こえた気がした。風が吹いたのは気のせいかもしれない。なぜなら、扉までは自然現象が起こるはずも無いのだ。
その声は、はっきりした物ではなく、小さいか細い声だ。
空耳かとも思ったが、もう一度耳を澄ませた。すると、また同じ声が聞こえた。
俺はその声が聞こえるほうに向かって、足を忍ばせて歩いた。
なぜ音を立てない必要があるのか、俺も疑問に思ったが、何故かそのまま続ける。
どんどん近づいていくうちに、それが泣き声だということに気づく。
そして、もっと近づいていくと、少女が見えた。白いローブで顔は見えないが、俺と同じぐらいの歳でまだ若い。髪はきれいな金髪で、長い髪だ。
少女が泣いているのを近くで見るために、彼女の真後ろの扉に隠れる。
移動して行ったところは、扉が多い所から離れた、扉の少ない所だった。彼女なりに、無い手も見つかりにくい場所に来たのだろうかと考えた。
…………。元気づけられることはないかなぁ……。でも、急に話しかけるのはダメだし……。そうだ……!
泣いている彼女にも気づくような大声で、呪文を唱える。
「空から来る迅雷よ。我に力を貸せ。雷!」
「!」
泣いていた彼女は、顔を上げて俺のほうを見る。
俺の唱えた呪文は、悪魔が使える呪文の一つだ。この呪文は、力のある天使なら使える。そして、一番の威力が少ない攻撃呪文である。そのため、速さもさほど無い。
そんな呪文だから、避けたり、天使が得意とする防御呪文か何かで防ぐだろうと思っていた。
ドンッ。
爆発音が聞こえる。
彼女の方は、土埃で見えない。
土埃が晴れてくると、彼女の様子がおかしいことに気づいた。声も、動いている気配も無いのだ。
そして、完全に土埃が晴れたとき、攻撃してしまった彼女が倒れているのに気づいた。
「えっ……!」
俺は驚いて、彼女の方によった。
「おいっ!しっかりしろ!」
彼女の肩を持って、揺するが動かない。息はしている。
だが、背中に大きな傷ができてしまっている。その傷から出る血は、純白の服を赤く湿らせる。
……えらいことしちまったな……。どうしよう……。あいつが来れば何とかなるかもしれないが……、待ち合わせ場所に来ねぇし……。
俺、回復呪文は下手だからな………。やれたとしても、傷とかが残っちまうだろうし……女の子だしな…………。しょうげねぇ!やれるだけやってみるか!
「穢れない心よ。その力を今、解放せよ!回復!」
少女の周りに結界が包み込んだ。
少女の傷は、倒れたときにできた擦り傷ぐらいは治っていた。だが、肝心の大きな傷の方は治る気配はしない。