キアラン 19
屋敷から離れた森の中に移動した。
森は木々が丁度少なくなっており、木は無い。そのため、広場のようになっていた。
「おしっ。これぐらいで大丈夫だろう。」
叔父さんは大きな丸太を持ってきて、俺の目の前に置いた。
「何だよ……?これ……」
「見れば分かるだろ?丸太だ」
「そうじゃねぇ!見れば分かるよ。この丸太がどうなんだって言うんだよ!」
叔父さんはそれを聞いて、ぷうっと膨れる。これを少女がやったら可愛げがあるが、叔父さんがやっても何も可愛げは無い。
「今言おうと思ったのにー」
分かった分かった。それで?
「さあ、説明しよう!この丸太を、触らずに切れ!」
「はあ?そんなもん無理だろ。」
「ふっふっふ。それができるんだなー。サタンの力を使えば。」
いや……。だから、使えねぇっつうの。そんなもん。って言うか、サタンの力なんか使えなくても良いって。
「何言ってるんだ!おまえがサタンの力を使えなかったら、血が受け継がれないだろ?だから、サタンの力を使えるようになれっ!」
ドンッと俺の背中を勢い良く叩く。
いっつ~。
痛がっている俺を無視してアーノルド叔父さんは続ける。
「それにな、サタンの力を手にすればおまえの護りたいものを護れるようになるかもしれないぞ。」
「護りたいもの?何だよそれ?」
「大きくなったら分かるだろうよ。それに、サタンの力を手にしていた人物。カーリーは護りたいものを護るときだけ、力をつかったそうだ。」
さっぱり分からない。でも、それがなんだか大切なことだというのだけは分かる。でも、今の俺に守りたいものなんてあるのだろうか――?
「でもよー。この丸太を触らずに切ることとどう関係あるんだよ。」
アーノルド叔父さんは、小さく不適に笑う。
「サタンの力は、カーリー一人と、それを見たものしか分からない。そして、そのカーリーがサタンの力を使ったのを見た人物の書記を見たんだ。その書記からは、『目にもとぬ速さで何が起きたのかもわからなかった。でも、目の前にいた敵は塵となって消え、もうどこにもいなかった。』ってな。だから、まず丸太から、って思ってな。」
…………他には書記に何かかれてなかったのかよ。
「えっと、確か……『その人は私を救ってくれた恩人』みたいなことが書かれていたぞ。それと、その書記は地界で見つかったんだが、かいたのは天使だったんだよ。その書記にその天使と男のもう一人の天使とカーリーが映ってた写真があったんだ。場所は……扉間ぽかったかな」
俺は何かが引っ掛かった。でも、何が引っ掛かったのかは分からない。
「その書記を書いた人の名前は?」
「たしか……『アンジェラ』っていったと思うぞ!さあ、早くやってみろ!」
いや……無理だって、まだ何かヒントがあるならまだしも、何も無いじゃねぇか!
「むむっ……確かにそうだな……しょうがない!とりあえずは、呪文で切ってみろっ。そのあとに、サタンの力を出せるようにしようか」
「分かったよ……」
えぇえっと………確か……―――
俺が家庭教師に習ったもので、特別な呪文が掛かってない限り何でも切ることができる風があったような気がするのだが、それが分からずにいた。
そして、考え始めてから数分後。叔父さんは顔を引きつらせて口を開いた。
「……もしかして………、分かんないのか?」
どう答えてもいいか分からず、苦笑いをして首をたてに振った。
「……分かんない」
「おっまえなあ!そんなもん基本中の基本だぞ!」
「うっそだ~!」
俺はそれを聞いて頭を抱える。
それから、呪文を暗記させられ、おまけに他の呪文まで覚えさせられた。そして、修行は呪文の暗記というだけで終わってしまった。