キアラン 17
「ここが奥様の部屋です」
爺やと二人で母の部屋へと移動した。
母の部屋は父の部屋の隣にある。母と父の部屋の真上の階には、私の部屋がある。そのため、ほとんど通りかかることは無いが、たまに見て母を思い出す。
「懐かしいですね………。私がここには十年ぐらい入って無いでしょうね……」
爺やは遠めで昔の事を思い出しているようだった。
鍵穴に鍵が入り、鍵が開く。
部屋に入ると母の温かいにおいが漂った。
「懐かしいなぁ……。このにおい」
部屋には日常家具が並び、清潔感がある。きれい好きな母の特徴がある。
「どうしてこんなに部屋が綺麗なの?塵一つ無い……」
「それはですね、ここの部屋を常時綺麗にするための結界が張られているからです。人が入るのは妨害しませんが」
へぇ~え。
母の居た部屋を見渡した。
母の使っていた物。
母が見ていた風景。
母が居た場所。
母のなにもかもが、この部屋に詰まっている。
私は知らぬうちに涙を流していた。
幸いなことに爺やはドアのところに居り、部屋を見ている。そのため、私が涙を流したことには気づいていないだろう。爺やには気づかれないように涙をぬぐう。
「爺や……一人にさせてくれない?」
私は声が少しかすれていたような気がした。爺やはそれに気づいたかどうかは分からないが、いつも以上に優しい声で言う。
「……かしこまりました。それでは失礼させていただきます。」
爺やの気配が消えたと思ったため、涙の溜まった瞳を再びぬぐう。
私は誰かが中に入ってこないかと思い、ドアのほうを向いた。すると、開けっ放しにされることも無く、扉は閉められていた。
爺や………
私は爺やが私を思いやってくれたことに気づく。
気を取り直して、
「よしっ!何か無いか探してみよう!」
私は鼻歌交じりで、本棚から探し始める。
「わぁあ~。結構本ある~。こんなにお母さん本読んでたんだー。おおっ。この本私が好きな本っ!お母さんも好きだったんだ!」
赤い背表紙の本を取り出して、本を抱きしめる。
この本、いい話だもんねっ。私とお母さんの趣味って結構合うかも………
また母のことを思い出して泣きそうになってしまいそうだったため、あわてて本を元の場所に戻す。
「ふふふ~ん。よしっ!じゃあ、今度は机を見てみよう。」
ん?この写真…………
写真は綺麗に整頓された机に写真立てが置いてあり、その写真には三人が写っていた。だが、一人だけ分からなかった。
一人は丁度私ぐらいの歳の母だ。もう一人も若い父。
だが、もう一人だけ分からない。丁度顔の部分が日に焼けて消えてしまっていた。
黒い服……。誰だろう?
この人と何かつながりが持てる場所はどこだろう。そう思ったとき、写真の風景を見た。
あれ……この風景、どこかで見たことがある!
私はどこで見たのか思い出すために、考え込んだ。
「分かった!扉間だ!」
大声でそう言った。
し…しまった!
私はあわてて口をふさぎ、ドアのほうを振り返る。
「ふう…。よかった。聞かれて無いみたい。」
それにしても……扉間か……。そうだっ!この写真を直せばいいんだ!
小声で呪文を唱える。
「物に宿る精霊よ。時をさかのぼり姿を示せ!」
写真は、青白いまばゆい光が写真を包み込んだ。
光が濃くなるにつれ、写真も直っていく。
光がだんだんと小さくなる。
光が完全に消えた後、私は写真を手に持った。
「―――!これは!」
写真から見えたのは、驚くべき人物だった。