キアラン 16
今日こそは……!
私は屋敷の廊下を走っていた。あるところを目指して…………
「爺や!」
ノックもせずに扉を勢いよく開ける。
部屋を見ると、白髪の入り混じった髪の一人の使用人がいた。大きい机の前の椅子に座っている。私が入ってきたことにも驚くことも無く、優しい表情で私を見つめている。
「あらあら。ノックもしないで何事ですか?」
爺やはゆっくりとした口調で私が入って来た事にも動じずに言う。
爺やは、私の母が亡くなった事を知っている。なぜなら、昔からこの屋敷に使えていた使用人だからなのだ。そして、母が亡くなったのを見て今でもなお、仕えているのは爺矢だけである。
それだからこそ、私は次の言葉を発するのに勇気が言った。他の使用人にたのめば、すぐに母の部屋の鍵は持ってきてくれるだろうが、何故か爺やに話したいと思ったのだ。
「あの……。母の……母の部屋に行きたいの!」
「!」
これには驚いたようで、爺やは大きく目を見開いた。だが、それも一瞬ですぐにいつものやわらかい表情に戻る。
爺やは小さくため息をつく。
「いつかはそう言うと思っていましたよ。お嬢さんは毎回、奥様が亡くなられたこの日に私に何か言いたそうに見ていましたから」
「――っ!」
「まあ、これぐらいになったら言い出しに来ると思っていましたよ。でも、どうして今日こそは行こうと思ったんですか?」
「それは……」
爺やは私が何を考えていたのかを見透かしていたのだ。
「…………」
私も爺やも数秒間何も言わなかった。
問い詰めてくるかなぁ……。
私は心配をする。
爺やは優しく私のほうを見つめていることに気づく。それに気づいた私も見つめ返す。
「お一人で行きますか?それとも、私もついていくほうがよろしいですか?」
爺やは机の引き出しから、鍵を取り出していった。
「うんっ。爺やもついてきてよ」
自分でもぱぁっと笑顔になったのが良く分かった。
……でも、どうして今日こそは、って思ったんだろう?
自分の気持ちに戸惑いながらも私達は移動した。