キアラン 12
もう…見つかっちゃったんだ。屋敷から抜け出してきたの……。
キアランとハンナと分かれてから、自分の屋敷に戻るために走っている途中だった。ずっと走り続けているため、息はとっくに切れている。
「やっと、着いた。」
一つの扉が目の前にあった。その扉は金でできており光沢がある。扉はのドアノブには鍵穴がついており、鍵がなければ入れないようになっている。
腰に掛けていた小さな鞄から同じような金でできた鍵を取り出す。そして、その鍵穴に鍵を差し込んだ。
すると、「カチリッ」と小さな音がして、鍵が開く音が小さくなった。
ドアノブに手を掛け、くるりと回した。すると、ドアはすんなりと開き私は迷わずにその中に入った。
中に入ると、そこには何も代わらない自分の部屋があった。薄いピンク色のカーテンのついたベッド。小さな茶色の勉強机。さまざまな本が並んだ本棚。そして、窓から見える綺麗な町並み。それは、私にとって当たり前の風景だった。
だが、いつもと違っていた。その違和感は、すぐに何か分かる。
部屋には以上は無いのだが、廊下から聞こえるざわめきだった。私は、何を話しているか気になり、廊下に繋がる扉に耳を当てて聞いた。
聞こえてきたのは、屋敷に使えている家政婦たちの声だった。たまに家政婦たちが話しているには聞いた事があることはある。そして、聞こえてくる内容はほとんど同じである。
「……旦那様は、いつも以上に不機嫌よ……」
「本当に。先ほどなんか、お食事を運んだときに『早く出て行け!』と怒鳴られたもの」
「まあ。そうなの?旦那様はいつも口五月蝿いのに、それ以上に口五月蝿くなるなんて」
「そんなときに限って、お嬢様も勝手に屋敷を出て行ってしまって。今日は本当に大変だわ」
三人の家政婦の声が聞こえる。
「お嬢様が屋敷を勝手に抜け出したなんて旦那様の耳にはいれば、怒られるのはわたしたちですものねぇ」
「ほんと。大人しくしていてくれない物かねぇ」
「でも、お嬢様は仕方ないじゃないですか。だって、お母様はお嬢様の小さい頃になくなられて、あの口うるさい旦那様と一緒に暮してるんですから。それに……今日はお母様が亡くなられた日ですよねぇ」
「そういえばそうですね――――」
私は、ある程度の家政婦の話を聞いて、深いため息をついた。
小さな棚の所に移動し、写真を手に取った。写真には、金髪の顔の長い美人な女性が左側に、同じく金髪で肩ぐらいにまでの豚髪を括った男性。その間にいるのが私だ。
三人とも嬉しそうに微笑んでいた。