Sleeping Chocolate
Sleeping Chocolate
カーテンの隙間から朝の日差しが挿し込む。
朝は、嫌い。
小さくため息をついて、隣りに眠るひとの顔を見つめる。
朝日に照らされた奇跡のように美しい顔。
朝は、嫌い。
端正なその顔に、そっと自分の顔を近づける。
間近に感じる健やかな寝息。
彼はまだぐっすりと眠っている。
唇が触れ合おうとする一瞬前
「おはよう・・・」
目を閉じたまま、彼の唇が動く。
夢の終わりを告げる一言。
私は体を起こした。
それが合図のように彼が両目を開く。透き通った涼やかな瞳。
いつから目覚めていたのだろうか、彼の感覚は常に研ぎ澄まされた刃のようだ。本当の意味で「無防備」なところなど見たことがない。
何故?
聞いたところで、本当の答えが返ってくることなどないだろう、彼はそういう人間だ。
彼は体を起こし、長い指で髪をかき上げた。
一瞬一瞬が絵になる男だ。
「きれいな指ね・・・」
彼はもの問いたげにこちらを見つめた。
「手の美しい男は不実だって、この間ドラマでヒロインが言ってたわよ」
「誰も俺に誠実さなんて求めてないだろ・・・」
「そうね・・・」
彼は床に落ちたシャツを拾いあげて羽織った。
そろそろ、時間だ。
夢の、終わり。
彼がバスルームに向かうのを機に、私も身支度を整える。
ここは私の部屋だけど、彼を送り出すために。
彼は時折私の部屋を訪れる、けれど、その逆はない。
彼がどこに住んでいるのか、私はそれすら知らない。
バスルームから出てきた彼は、一分の隙もなく、完璧に身なりを整えていた。
「洋介・・・」
玄関に向かいかけた彼が振り向く。
「なんでもない、気をつけてね」
「ああ、ありがとう・・・」
ドアを開けた彼がもう一度振り向いた。
「よいバレンタインを」
その一言を残して、ドアが閉まる。
胸が締め付けられた。
ドアを開けて、叫びたい。
行かないで・・・。
だけど、それはできない。
それをすればきっと。
彼は二度とここには来ないだろう。
今日は2月13日。
明日、彼が誰と過ごすのか、私は知らない。
明日のバレンタインデー。
戸棚の中で眠っているチョコレート。
きっと、渡す機会は来ない。
私の思いとともに
永遠の眠りにつくのだろう。