第二十六話 『救世主』・襲来
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「………………」
スクッと音もなく、何も言わずに立ち上がる。
その男……いや、フードが無いから確定はできないが。
その『人』は、建物の屋上にいた。
「……時が来た…………!!」
「『悪』を、滅しに行かれるのですか?」
その『人』の後ろに控える、一人の青年。
彼は、まるで王に話しかけるかのように平身低頭で言う。
「今は何も、言わなくても良い。
私一人で、十分だ。…………大規模魔法の準備は?
アレには、心苦しいが全ての民の協力がいる」
「すぐにでも発動をできます。媒体は儀式場で」
「分かった」
男は挨拶をし、その場所から離れる。
『人』は一人残り、星空を見上げる。
「……『意思』よ。運命の赴くままに……」
『人』はフッと一瞬ため息をつき、その場所から離れ、
一般に儀式場と呼ばれるそれに向かう。
「準備は良いな? 必要以上に魔力をいれるな。
私は誰一人として、犠牲を出さずに成功させたい」
一つの大きな部屋。五十メートル×五十メートル程の部屋いっぱい、床に描かれた魔法陣。
その周りに集う、数え切れないほどの人。皆ローブに身を包む。
一見すれば、神官などであろう。
「は! 意のままに。……我らに平穏を与えて下さったこと、ありがたく思っております」
「あれが私の運命。…………なら、そのままこの、時代を続けるのが皆の運命。
私は何も後悔していない。……では、良い時代を。
……送ってくれ」
『は!!』
部屋内の声が一度に重なった。
そして、それぞれから感じられる魔力は集まり、一つの膨大な魔力となり、魔方陣に干渉していく。
次の瞬間、パッと閃光が奔った瞬間、既に『人』の姿は、その部屋から消えていた。
「…………慣れないものだ。別れは」
その『人』は、歩いていた。
草原を、ただゆっくりと。だが、世界の一部であって普通では無い場所。
その真ん中で、歩きながら、その『人』は泣いていた。ただ無表情に、涙のみを流して。
「……彼らの為にも、覚悟しておいてくれ。『三人』」
ただゆっくりと、歩き続ける。
今回は短めでした。