第十六話 ~『哀』対『傲慢』『怠惰』『憤怒』~
ああ……した……い……。
周りは、気付けば闇だった。
真っ暗闇。光の無い世界。でもなぜか、自分だけははっきりと、確実に見えていた。
ああ……したい…………。
何を? 何で?
自分の声であるはずの、だが他人の声であるようなソレは、
まるで壊れたラジオのように、ノイズが邪魔をしてよく聞こえない。
「……した。 したい。
…………したい。 …………………………したい!」
そして気付けば、俺は自分で、ノイズの混じった声を発していた。
俺は……どうした?
確か、世界を渡って、『救世主』と戦う事実、世界の『意思』を教えられ、
それで、それで?
それでどうした?
俺は、何の為に帰ろうとした? 世界?
……否。帰る、とは何処に? 何で?
世界の『意思』? 『救世主』? そんなもの知らない。
次々と表れは消えていく言葉。ここでは記憶とでも言うか?
それらは、分からない。
「もう……どうでも、良い、のか?」
「……したい! 何でもいいから……したい!」
何だってんだこの声は! 俺だけど俺じゃない!
だけど俺の声! 俺は俺じゃなくて、でも俺である。
だけどその俺自体の存在が……何?
急にはっきりとしてくる、『事実』?
いや、それより事実、って、な、に?
…………?……??…………???………………????
俺は、何?
「……したい。したい。
…………したい。皆を、全てを……したい」
――――――殺したい――――――
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
急にはっきりとした、意識。
否、人格。俺という表層意識。
「……? …………??」
周りは、石。
石でできた、牢屋。
そしてそこに立つ、三人の美しい女達。
その一人は、言う。
「ふん! たいした魔力だな。俺様には及ばんが!」
そしてまた一人、
「あらら~、多分記憶とか人格とかその他吹っ飛んだよね~」
そして、最後の一人。
「……なるほど。この男がこの程度で完全に変換されるか。
まったく、失望した!」
「……fsjdrmdfdsf殺djdflkdsflkdslkfj」
「……ねえねえアロ姉、何か殺気がビンビン来るのは気のせい?」
「気のせいでは無いだろう。
コイツの象徴は殺人欲なのだろ。そんな悪魔聞いたことも無いがな」
「何にせよ、我々が『悪魔の王』様に命を受けたのは、
コイツを悪魔変換を進行させながら痛めつける事だけだ。後の指示はコイツを動けなくさせてから求めるしかないか!」
好き勝手言うな。
……こいつ等、誰だっけ?
…………そんなの、どうでも良いか。声が出せなくても、変わりはないし。
それより、早くこの、ムズムズして、イライラして、ウズウズする感覚を止めたい!
何でもいいから、傷つけたい壊したい殺したい!!!!
「dfflksdjfldskjflds殺fglkdsjsjkl殺!!!!!」
足に力を込めて、飛び出す。
まずは、白髪のガキ。
「アレ? 私くんの? やだなぁ、アロ姉かツォルンのとこ行ってよ~」
「「おい」」
白髪のガキに左手をかざす。
まるで一連の動作が体に染み付いてるよう。
魔力?がその手の先に集まってる気がする。
「……Dantalion………………jfdsjljfll……」
「はっ!?」
ガキが呆ける。……もう遅い?
その瞬間、白髪のガキの場所が、俺の魔力?で吹き飛んだ。跡形も無く、だ。
さあさあ!
これから真性のバトルパートに移っていきます!