第8話 現世のかぐや様
月明かりのような柔らかな光に包まれた僕は、気づくと大勢の人達に囲まれていた。正面には、僕と同じくらいの年齢の着物を着た女性が、座椅子のようなものに座り、尊大に構えていた。
「⋯⋯其方が、好き勝手に月の帳を開けた無礼者か? わしが輝夜じゃ」
ちゃんと和風の衣装、バニーさんではなかったので安心した。おかしな服装は明星さんだけだった。みんな武装して刃を僕に向けていたけれど、服装は和装だもんね。
明星さんより見た目は断然に若く、性格がキツそうなお姫様が、現代のかぐや姫さまだった。
「ヤバい、超ストライクだ⋯⋯」
性格はともかく、偉い人がよくやる着崩し隙だらけの格好、地雷感漂う姫カットのあどけなさの残る和美人。側に控える侍従っぽい人たちが、さらに目を細め嫌悪感を増したが構うもんか。月の民って、みんなキツいのかな。
「吾らにはそなたの思考が伝わるのじゃ。まあ思考を見るまでもないが。それに失われて久しい天星の御技を、そなたのようなキモちの悪い妄想癖の男に扱われることを、みな不快に感じておるだけじゃ」
輝夜さまの元へ案内してくれた明星が、僕がここで歓迎されていない理由をわかりやすく説明してくれた。嫌がられていると、ハッキリ言われてそれはそれで辛い。妄想の時点で、既にセクハラなので文句は言えない。
「まあよいわ。地上の若いおのこは猿人の如き輩と聞くからのう。そなたがわしの役に立つのなら、少しくらいの懸想は許してやろう」
輝夜さまから妄想への、まさかの御墨付きが出た。まさかとは思うけど、千花のようなオチ‥‥はないよね?
「懸想は許すが侮辱は赦さぬぞ?」
ニヤッと笑う輝夜様。これだよ、これ。思考がわかっていて、悪そうに言う愉悦を含む目。求めていたものがここにあった。
「おぉ⋯⋯其方、まことにキモち悪いのう」
気持ち悪いのきもちをキモッてわかる風に言うのやめてほしいものだ。でも蔑視の瞳が輝夜様だとご褒美になるので⋯⋯本気で嫌そうにされた。ごめんなさい。
「⋯⋯そういえば、ここどこだ?」
明星さんも案内すると言っただけで、僕は自分の部屋のベッドにいたままだったのに。
「いまさら呆れたやつじゃな。ここは月世界────そなたにわかりやすく言うならば、夜見の国、根の国、異界、異星界、アウターゾーンか?」
僕にわかりやすいよう言葉を探して答えてくれる輝夜様。ずいぶん退屈されていたようだ。
月は異星や異世界になるのかな。本来なら見る事も来る事も出来ない世界。月の世界の異次元スポットに僕は招待されたらしい。
「‥‥夜見? 黄泉の国とは違うのですか?」
「それは下界のものどもが、わしらを恐れ穢し、蔑み貶めるための偽り話よ。まあ統治のための常套手段よな」
カラカラ笑う輝夜様。あまり気にされていないのか余裕が伺える。
「誰が其方らの世を守って来たと思うておる。神とやらか? 笑止よな」
「輝夜様、お鎮まり下さいませ」
侍従らしき人がそっと声をかけた。なんか本気で怒ると不味い空気が輝夜様にはある。
「もう一つ聞いても良いですか?」
「なんじゃ」
「なんで明星さんだけ、あんな格好なのですか?」
僕は場違いな格好で堂々としている明星さんを指で差した。
「ぶふっ──この世の成り立ちや秘密より、気になるのはおなごの衣装か」
「だって、いきなり自分の部屋に見知らぬ女性が痴‥‥バニーガール姿で現れたんですよ?! エッチな気分どころか怖いじゃないですか!」
「わしに吠えられても、妄想小僧の気持ちなど知らんよ。明星は月の民でのうて、金星のものじゃ。あやつらは変わり者が多いからのう」
古来より月と金星の民は仲が良く、協力体制を築いて来たそうだ。見た目には月の民も、金星の人も、僕たちとあまり違いはないのに見分けがつくものなのかな。
「明星は触れたものへ、透過の力を持つのじゃ。其方の使いを任せたのも、その力が役に立つゆえよ」
「そうですね。というか吾を痴女呼ばわりは心外な。やはり始末すべきでしたか」
「だから物騒過ぎですって明星さん。ほら、皆さんだって目を逸らしてるし」
僕が悪いんじゃない。友誼を結んだ相手の文化にとやかく言えず黙認されて来たようだ。
「むっ、それならそうと、もっと早く仰って下されば良かったのに」
明星さんも、実は気がついていたようだ。うん、たぶん輝夜様は知ってて放置したっぽい。身分や立場があるのか、明星さんに意見出来る月の民は、輝夜様だけなのに。
「格好などどうでも良いが、任務だけはこなすようにさせよ。其方もすまぬがわしに力を貸してくれ」
「わかっております」
「はい、わかりました輝夜様!」
「そなた、吾の時は追い返そうとしたくせに⋯⋯」
そりゃ、急だったし怖かったから仕方ない。明星さんは月の民と同じような着物に着替え、僕を家へと帰してくれた。少し涙ぐんでいたのは見なかったことにした。
この素晴らしい出会いの場を与えてくれた事には感謝してますよ、明星さん。




