第13話 小悪魔の誘い
足場を増やした事で、コスモスギャング団の戦闘型偵察機は、明星さんの無双で全て撃墜された。何なの、この人。全部ぶった斬るとか、おかしいよ。格好良いけど。
「────こちら明星、敵機全滅。後続の確認と回収、後は頼むぞ」
僕の初任務は無事に終了した。明星さんにより、後の事は月の民や、金星人の仲間が処置するそうだ。
残骸一つ残しただけでも騒ぎになりそうだ。AI動画が進歩しやたらと出回っているのって、こうした隠された真実を誤魔化す、はぐらかすために行われているんじゃないかな。いざ見つかっても、どうせフェイクでしょ? そんな風になりそうだ。
「明星さん実際、僕にはパッて光った瞬間全機撃墜していたようにしか見えなくて、ぶった斬る姿は妄想なんだけど‥‥どうなってるの?」
「初撃‥‥光速で発射しようと、狙いは吾だ。当ててくれるのなら弾くのは造作ない。ものの道理ぞ」
その後も高速で飛ぶ敵機が明星さんを迎撃に来た敵と認識し、向かって来るのを読んでいた。刹那の時間の出来事。僕、いらなくない?
「足場のバルーンを割れば、瞬間的に速度が落ちる。あれは良い判断だぞ」
「それなら良かった」
「そなたの天雲‥‥いまや月雲の力は、結界の役割が大きい。それに刃を交えて戦うばかりが力ではないと知っただろう」
そう。僕は雲を‥‥水を扱う能力の本質をわかり始めている。漫画や小説では、派手な演出ばかりに目がいきがちだけどね。月の引力の力と天雲の水を扱う力、それに妄想‥‥知識や知恵の結晶が合わさる事で、僕には様々な事が出来るのを知った。
「帰ったら勉強を教えて下さい。僕がもっとこの力を活かせるために」
学校のテストで良い点数を取るためだけじゃない。僕はもっと学ばないといけない。やりたい目標が見つかり、僕はようやく立ち上がれたような気がする。
「良い目になったな、翔」
明星さんに、褒められた。残念美魔人だけど、芯の強いしっかりした方なんだなと思った。
「お兄ちゃんばっかり、ずるいっ。私も行きたかったのに」
家に戻ると、何も言わず置いてきぼりにされたと小望がうるさかった。
「小望、お前は輝夜様の所に遊びに行ってたじゃん。僕はそっちの方が良かったんだぞ」
目指す目標と、男子高生の欲望は別だ。輝夜様とキャッキャウフフが出来る夢のような体験を僕だってしたい。
「お兄ちゃん、格好良くなったと思ったけどキモさは変わらなくてガッカリだよ」
妹には相変わらず駄目出しされ、キモがられながらも兄妹仲良くやれている。
幾島さんに告白して振られてから、能力に気付いて‥‥大して時は過ぎていないのに、僕の見えている世界はずいぶん変わった。
空は青く眩しく、今年もまた厳しい酷暑が何度も訪れるだろう。不安定な世界。僕一人でどうにかなることはないと思っていたけれど、今は違う。少しでも僕を見て笑いかけてくれる人々の笑顔を守るために、出来ることをしたいと考えるようになった。
────テストは無事に終わった。あれから終業式まで何も起こらず、僕は明星さんから訓練と勉強と、鍛えることや学ぶことに毎日それなりに忙しい日々を送る。自発的にやるので苦はないけど、刺激は少ない。
「もっくん、そんな修行僧みたいな暮らしばかりじゃ飽きるでしょ。青春しようよ、青春」
また何かよからぬことを企んでいるのか、ホームルームのあとに千花がチラシを持って声をかけて来た。
「夏休みのアルバイトスタッフを募集しててね。息抜きがてら、一緒にやらない?」
千花の持っていたチラシはアルバイト募集の紙だった。お金を得ることも大事だけど、千花なりに気を遣って声をかけたんだと思う。
「いいよ。日中は暇だし、身体も動かさないとね」
「そうこなくっちゃ。いやぁ、助かったたよ。このハンバーガー屋さん、ボクの親戚の親戚の店でね」
それはほぼ他人じゃん。待て‥‥店長の名前が幾島だと⋯⋯? まさか‥‥ね。
「楽しいことが起こるといいよねぇ。じゃ、帰ったらまた連絡するよ」
ニヤニヤが止まらない千花はチラシを僕に渡し、肝心な事を質問させず先に帰ってしまった。
振られて、降られたんだぞ、僕は。もう綺麗さっぱり水に流したのに、どうしてこいつは引っ掻き回すのか。
ふわふわと浮かぶような気持ちは、勝手に何かに期待してしまう僕の悪い癖だ。わかっているよ、そんな都合良く行くことなんてあるものか、ってね。
でも、もしかして⋯⋯そんなサプライズに胸を膨らませ、飛び上がらんばかりに僕は足取り軽く帰宅した。
〜 完 〜
お読みいただきありがとうございました。個人企画の空を飛ぶに、公式企画の仕事を任務としてとらえた作品になりました。
コメディにする予定でしたが、空想科学色が強くなったのでジャンルは変更しています。




