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ふられた妄想厨少年、ブラック沼にハマるも幸せそうです  作者: モモル24号


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第11話 大人の階段


「もっくん、おはよ〜〜。何、寝不足? 顔がいつもよりキモいよ」


 気安く背中を叩いて、千花が挨拶して来た。僕とは対照的にこいつはツヤツヤした健康的な顔だな。小脇に抱えた封筒にはもう騙されないぞ。


「心外だなぁ。ほら幾島さんの最新映像だよ」


「幾島さん、相変わらず美しいジャンプだね⋯⋯」


 千花の手に持つスマートフォンで見せて貰った動画には、幾島さんのデビュー戦が映し出されていた。一年生でレギュラー獲得、そして試合でも活躍か。僕が惚れた人は、このまま手の届かない高みまで飛んでいくのかもしれない。


「⋯⋯あれっ、なんか思っていた反応と違わない?」

 

「ふっ⋯⋯青いな千花は。空の色や制服の色より青いよ」


 同学年の‥‥好きになって告白して振られた相手の活躍など⋯⋯眩しいだけ。でもさ、恨む気なんて全くない。頑張ってる姿を見ればわかる。あの時の振られた言葉は本物だった。そんな頑張り屋さん、応援するしかないじゃないか。キモいって思われるけどさ。


 それに⋯⋯僕はもう大人の階段を登った。天の扉を開いたのだ。輝夜様という本物の輝きを知ったから、千花に煽られようと動じないのだ。


「⋯⋯ブツブツ口から漏れている言葉と、目のバッキバキが一致してなくてキモいよ、もっくん⋯⋯」


「ええぃっ、人間そんな簡単に割り切れるかっての」


 リアルに拝めなくなった美しいジャンプ姿。そりゃ達観したふりをしたって、出来るはずがない。たかが高校生にそんな人生の経験値なんて積まれてないし。


 簡単に諦められるくらいなら、はじめから告白なんてしていない。でも⋯⋯言わずに眺めて終わるより、僕は当たって砕け散ったことに後悔はないぞ。あっ、なんか心の涙が出たよ。


「⋯⋯なんかゴメンよ、もっくん。お詫びにこれ渡しておくよ」


 申し訳なさそうな千花。軽く弄るつもりが、ダメージ与え過ぎて逆に心配になったようだ。千花が持っていた封筒には、前に見せて貰った幾島さんの写真だった。


「一応さ、もっくんが持つことにキモがられるといけないから、幾島さんには確認してあるよ」


「⋯⋯⋯⋯待った。確認したの? 何で?」


「うん。ほら裏に彼女がサインしてくれたし」


 振った相手が自分の姿を大きく引き伸ばした写真なんて持っていたら気持ち悪く思うよね。いや、欲しがったのは僕だけどさ。サインまで⋯⋯?


「変な事には使わないでほしいって。良かったね、もっくん」


 ⋯⋯終わった。写真は嬉しいけれど、幾島さんがどんな気持ちでいるのか考えただけで頭がおかしくなりそうだ。


 僕がのたうち回るくらい頭を抱えるのを見て、楽しそうに自分の席に戻っていった。あいつ、結局僕で遊びたかっただけだったな。でも、念願の写真はサイン付きで手に入ったので良しとしよう。



 学校の帰りに写真に合うサイズの額縁を購入し、今度こそ本物の幾島さんの跳ぶ姿の写真を飾る。


「キモッ⋯⋯」


「おわっ?! 小望、お前いつからそこに?」


「お兄ちゃんが学校から帰って来た後から、ずっといたじゃん」


 妹の背丈の問題ではなく、僕が浮かれ過ぎて目に入ってなかったらしい。


「その人が告白した相手なんでしょう? 普通、振られたのに飾るかな」


「これは恋愛どうこうじゃない。美しいだろ、このジャンプした姿」


「それはそうだけどさ。あぁ、きっとヘイトを残さないためだね」


「どうゆうこと?」


「過去の黒歴史の早めの清算だよ。活躍して有名になった時に、お兄ちゃんが悪さしないように。『彼はいちファンでした』 そう言えるもんね」


 もしかしたら‥‥そんな淡い妄想を破る容赦ない小学生。でもさ、幾島さんはブラックな妹と違い、純粋なんだよ。


 写真の裏のサインには、メッセージも書かれていた。告白⋯⋯初めてだったからびっくりしたけれど嬉しかったよ⋯⋯そう書いてあったんだから。


「だからさぁ、そこが甘いくてキモいんだよお兄ちゃん。純真な人は悪意のない言葉で心を破壊するキラーマシンと同義なんだよ?」


 高校生の僕の半分も生きていない小学生に、月の石を使って訓練しながら人生の厳しさを叩きこまれた。母さんと買い物をしていた明星さんが戻る頃には、僕の妄想力は十日過ぎた風船のように、しなしなに萎んでいた。


 

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