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ふられた妄想厨少年、ブラック沼にハマるも幸せそうです  作者: モモル24号


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第10話 こんな形で会いたくなかった


 朝⋯⋯目が覚める前から、なんだかうるさい気配がした。


「むっぐぐぐむぐっむぐぐぐ!」


 母さんのパジャマのシャツを、上だけ着たエロ格好良い女性が、小望を抱きかかえて、その口を手のひらで塞いでいた。誘拐犯かよ‥‥じゃない、明星さんか。


「⋯⋯まだ朝早いし、夢だな」


 僕の中で防衛本能が働く。予定通り寝ぼけたふりをして、触れないことにした。僕の様子を見て小望がぶち切れて、パジャマの女性──明星さんの手に噛みつく。小望に騒がれては困るのがわかるのか、明星さんは歯を食いしばりながら耐えている‥‥まさに修羅場だ。


「小望よ、兄の目を見たであろう。吾はこやつの教育を任されたものと言っただろう。兄から説明させるゆえ解放するが⋯⋯叫ばないでほしい」


「むぐっぐ」


 コクコクと相槌をうつ小望。鼻から全力で息を吸い込んでるから‥‥口を解放すれば叫ぶぞ‥‥ソレ(小望)


 明星さんが手を放すと、小望はさらに深く息を吸う。二人の間に昨晩何があったのか、僕にはわからないが約束事を守るくらいには信頼関係を築いたようだ。


 息を溜めた小望は、狸寝入りしようとする僕のベッドのうえに乗る。そして布団を僕の顔に被せ、両手で僕の耳を覆った。


()()()()しろーーーー!!!!」


 お子様特有の甲高い声を解放し、叫ぶ妹。布団は階下の両親へ漏れない配慮だろう。なんて冷静な小学生なのだ、この妹。僕の耳は鼓膜が破れたんじゃないかってくらいに、キーンとなった。


「明星さんが説明しなかったの? てか、昨日寝ぼけて彼女を自分の部屋に連れて行ったの小望だぞ?」


 ペシッ!


「痛っ!?」


 僕の布団から這い出た小望はイラッとした表情になり、僕の鼻を指で弾いた。僕は起き上がり、ベッドの上で妹と明星さんと正座しながら向き合った。そして昨夜の経緯を洗いざらい吐かせられた。


「お母さんは、私が説得する。その前に輝夜様に、ちょっと掛け合って来ないと駄目だね」


「昨晩威勢よく別れた手前、輝夜様に会うのは⋯⋯」


「明星さん、いいよね?」


「うむ、任せよ」


 僕の意見など無視する妹。明星さんは僕よりも、小望に考えに同意する。まだ練習すらしていないのに、輝夜様にお願いするのも憚られる。


 明星さんに関しては、彼女に口を塞がれながら説明をしていたようなので、小望も状況を理解したんだろう。暴れても小学生の力ではビクともしない明星さんの力で、妹の口は赤く手形が浮かびあがっていた。



「おまけつきで、早い帰還じゃな二人共」


 輝夜様は簡単に会ってくれた。僕にはニヤニヤした微笑みを浮かべ、早い再会を触れないでくれる輝夜様。その楽しみと憐れみを兼ねた優しさが染みる。そして新たな客人、僕の妹である小望を興味津々に眺める。明星さんのシャツを着ただけの格好には、フイッと目をそらし見なかった事にした。


「輝夜様、初めまして。小望と言います」


「うむ、わしが輝夜じゃ。明星のことで話がしたいそうじゃな」


「はい。面倒事を押し付けるのは構わないのですが、この人を養うための費用をいただきたいのです」


 経済観念のしっかりした小学生の妹は、僕が口約束だけで面倒事を押し付けられた事への対価を求めた。母さんを説得するにも、資金は有効だ。


「しっかりしたむすめじゃ。わしらにはない概念ゆえ失念しておったな」


 輝夜様は小望の要求をすんなり受けてくれた。この月の民や明星さん達金星人の暮らしの中では、お金は必要ない様子だ。王族だからかもしれないけど、生活費の必要性は理解してくれた。


「其方の所で使える銭はさすがにないが、代わりにそれを使え。足りないようならまた取りに来るがよい」


 輝夜様に言われて侍従が運んで来た小袋を、僕は受け取る。


「うおっ、重たっ!?」


 手のひらくらいの袋。思ったよりずっしりして、落としそうになる。中身は鶴や亀や金魚の形をした小さな金の粒だ。金の相場なんて知らないが‥‥かなりの額なのは、僕でもわかるよ。


「ありがとうございます、輝夜様。お兄ちゃん、明星さん、戻るよ」


「忙しないのう。小望よ、また遊びに来るがよい」

 

 気の合う友達を見るような目で、妹に優しく声をかけてくれた輝夜様。小望よ、兄はあなたが羨ましいです。


「馬鹿な事言ってないで。遅刻しちゃうから、次はお母さんを説得しに行くよ」


 僕の部屋に戻ってくるなり、貰った金の粒を数個握る小望。


「重たっ?! 金て本当に重いんだね」


 頭でわかっていても、体感するとずいぶん違う事を、僕も妹も実感した。


「残りはお兄ちゃんが預かっていて。全部渡すとお母さんはともかく、お父さんが人として駄目になりそうだから。机の一番下の、エッチな本を隠している図鑑の入った引き出しは見ないふりをしてくれるよ」


「────ちょっ、おまっ何でそれを!?」


「お母さんが部屋の掃除していた時に、机の上に出してたの、戻してあげたの私だもん」


 キモい呼ばわりしながら、それでも素知らぬ顔で懐いてくれていた妹が怖い。あとお父さんへの評価が厳しいが、そこは僕も同意だ。幸い父さんは、先に出勤してくれたので良かった。

 

 小望は、朝の支度に忙しい母さんへ突撃する。妹について行くだけの僕と明星さん。なんか忘れている気がするが‥‥。




「おはよう、ふたりと⋯⋯⋯⋯」


 階段から降りてくる足音を聞いて、朝食の支度をしながら、母さんがフリーズした。わかるよ、母さん。自分のお古のパジャマを着た見知らぬ女性が子供たちの後から現れたんだからね。


 明星さんの恰好は、パジャマからはち切れそうな谷間、下は下着のみ。寝ぼけた小望が、階下のトイレに行くついでに母さんのタンスから持ち出して着替えさせたらしい。母さんからすれば、自分のお古のパジャマをエロく着た見知らぬ女性が突然現れたのだから軽いパニックになっても仕方がない。


「だ、誰なのその人は!?」


「お兄ちゃんの、先生」


「あらっ、前に翔の能力がどうこう言ってたのは本当だったのね」


 小望は夜の空中浮揚の後日、あらかじめ僕がおかしな能力に目覚めた事や、それによりおかしな事件があるかもしれないと、母さんに伝えていた。根回しが良すぎるよ。


 慣れない内の練習で起きた、雲居家のみの集中豪雨について、何も言わなかったのもそのおかげだったようだ。小望、小学生だよね。


「お兄ちゃんに教えるために家に住むことになったの。授業代のかわりに家賃はいらないよね?」


「構わないけど、その先生⋯⋯大丈夫?」


 母さんが僕を訝しむ目で見た。小望の手前、スキャンダラスな事件にならないか心配しているようだ。


「私の部屋で一緒に寝るから大丈夫だよ。それに食費や当面の生活費をこれでって」


 朝食の用意された食卓に、小望が握っていた金の粒をゴトッと置いた。


「小望、これは金よね⋯⋯本物?!」


 鑑定するまで実際わからないけれど、生き物を象った五つほど粒は百グラム程。結構な額になる。


「とりあえず、お父さんには内緒にしましょう。紹介がまだだったわね、私は光子。あなたのお名前は?」


「吾は明星という」


「さあ、さっさと顔を洗って歯を磨きなさい。遅刻するわよ。明星さん、あなたもね」


 さすが母さん、小望の母親だけある。父さんには、海外からホームステイでやって来た外人さんと説明する事になった。お金の事には触れない。明星さんは日本かぶれで、変な設定の話をしだしたり、言葉遣いもそれで覚えてしまった事にする。


「二人が学校行っている間、明星さんはお母さんが預かるわ。まず服を買いに行きましょう」


 母さんも、自分の服を貸すと色々と家庭内で問題になりそうだと感じたようだ。母さんもパートの仕事があるので、午前中は明星さんにはお留守番をしてもらう事になった。

 

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