第1話 告白の雨
僕、雲居 翔はファンタジー好きな男子高校生で、実は特殊な能力を持っている。どんな能力か⋯⋯それを話すためには、まず能力に気づいた経緯を話さないとわからないよね。
────あれは夕暮れ前の放課後、学校の屋上での出来事だった。僕は高校生になったばかりだったが、好きな娘が出来た。
彼女の名前は幾島 結月さん。バレーボール部の期待の新人で背が高く、跳ぶ姿があまりにも美しくて僕は惚れてしまった。
彼女とクラスは別。でも同じバレー部の新入生だったので、練習が重なる機会が毎日のようにあった。練習後の後片付けや掃除で一緒に作業する事が多い。練習での気合の入りぶりと、力を出し切った後の柔らかな物腰。惚れない方がおかしいよね?
顔を合わせれば挨拶をしたり何度か言葉を交わしたりするくらいの仲になれた梅雨時のある日────僕は思い切って告白する事にした。
伝えたい事がある⋯⋯部活終わりにそう呼び出して、やって来たのは屋上だ。眺めの良い夕暮れの美しい景色と、疲れて熱くなった身体と気持ちの昂り。イメージはバッチリだ。
────鉛色の梅雨空でなければ。
「ねぇ、雲居君。大事な話って何?」
スポーツひと筋の彼女。このシチュエーションで、告白を想像しない純真さが最高だよね。
「それと‥‥屋上って、確か許可のない生徒は立ち入り禁止だよね?」
純真だけど現実的。それでも可愛いから気にしない‥‥僕は彼女の気を引くために空を差した。
「見て、幾島さん。あの雲の集まる部分。まるでハートみたい雲だよね。僕たち二人を空が……」
僕が指差した先は、はじめはどんより暗い黒い塊だった。僕が指で示した瞬間、なんとなく、ハートの形になったのだ。
実はこれ、僕の無意識の昂ぶりが空に形を作ってしまったものなんだよね。この時はわからなかったけど。僕の脳内では二人がハートを描く雲の上で、手を取り合うロマンチックな光景が広がっていた。それに呼応するように、空は甘ったるいピンク色‥‥ではなく薄くなった隙間から差す夕焼け色のオレンジに染まっていく。
「えっ、あの雲? なんかキモいよね。中学生の時に、理科室にあった心臓の摘出モデルみたいで不気味だわ」
「あぁ、昔のホラーの定番、人体模型図か。僕の通っていた中学校にはなかったな‥‥」
「私の学校の人形は、保管場所が悪くて日焼けして、ちょうどあんな感じの色だったのよ」
せっかく起きた奇跡の晴れ間だというのに、彼女の認識は現実的でときめきが感じられない。だからといって、ここで引いては何も始まらない。
「ほら幾島さん。今度こそ、ハートの雲が」
僕の願いが届いたのか、梅雨空の自然現象がたまたま動いたのか、厚い雲がよりハッキリハートの形を作り出し、夕暮れ色の空の色まで見えた。
「‥‥えっと、雲居君。私に伝えたい事って空模様の事? 練習で疲れてるし、もう帰るよ」
幾島さんは、彼女の頭上の鉛色の空から分離したハート型の雲を、一瞥する事もなく言い放った。
「あっ‥‥待って、結月さん。まだ肝心の話が。ぼっ、ぼ、僕と付き合って下さい!!」
浪漫あふれる奇跡は無駄になる。泣きそうになりながら、僕は慌てて幾島結月さんに告白した。




