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冷遇された軍神 〜今川了俊の無双物語〜 史実無視のなんちゃって戦記  作者: 山根丸


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若狭街道、京方面

「逃げよう。」


 視界の奥に翻る松笠菱紋を目にした次の瞬間、貞世はつぶやいた。


 え?と周囲の兵が貞世を見る。


「負けだぁ!逃げる!」


 大声で叫ぶと、全力で街道から逆方向へ駆け出した。


「退き太鼓鳴らせ!鳴らしながら走れ!」


「え、ちょ。」


「横手!姫様を守れよ!」


「い、言われずとも!」


「湯沢ぁ!街道に兵は!?」


「の、軒並み逃げとります。とにかく一度退こうと。」


「完璧だ!そのまま逃がせ!」


 走りながら矢継ぎ早に指示をだす。


 桃井兵・今川兵。双方の大将が走り出したのを唖然として見送った彼らは、一拍遅れて駆けだした。


「逃げろ逃げろ逃げろぉ!速さが命だ!文字通り!」


「う、うまくねえっすよ!」


 ざざどがばしゃぐちゃ


 倒木も窪みもなんのその。


 300余名がとるものとらず逃げ出した。


 ※


 細川典膳にとって、今の状況は好機であった。


 現当主の甥ではあるものの、親は数ある侍大将の一人にすぎない。


 同じ甥でも、阿波守護職を父に持つ細川頼之とは大きな差があった。


 鬱屈とした日々。だが、それも過去の話だ。


 叔父が謀反人となってからは、同じ一族というだけで重宝され、今や先手の大将である。


 数千の兵を導く名誉ある職だ。


 しかも、若狭周囲に細川家と戦える家は存在しない。


 ときたま現れる幕府軍を蹂躙しては功一等の誉をほしいままにした。


(さあて、今日の獲物はどこかな?)


 騎乗したまま舌なめずりをする。


 一大反抗作戦の前哨戦として保阪領に向かっている道中、味方が襲われていると報が入った。


 わざわざ戦功が向こうから来てくれたのである。


 典膳としては笑いが止まらない。


 幕府方は勝ち負けを気にせず立ち向かってくる傾向にある。


 転がり込んできた幸運に感謝しながら部隊を急がせ・・・


 急がせる。


 保阪領への曲道は通りすぎたが、気にしない。敵は小勢だという。ひと揉みに押しつぶし、返す刀で保阪領へ向かえばよい。


(ああ、なんていい人生なんだろう。)


 典膳の脳裏には輝かしい未来がありありと描かれていた。





 ☆

 どうにも区切りが悪いので、今回の話は短めです。

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