襲撃
戦には銭がかかる。
兵糧・武具はもちろん、飼料代やら通行の挨拶料やら、援軍への謝礼やら、戦死者が出れば慰労金に恩給に・・・
夥しい銭がかかる。その出費を、いかに賄うか。
選択肢はいくつかある。
相手から分捕る、主君から貰う、家来から召し上げる。
あとはまあ、略奪である。
※
「いい天気だ。」
ぽかぽかと暖かな陽気に包まれて、貞世は顔をほころばせる。
周囲の兵士たちも口々に賛意を示す。
「絶好の襲撃日和だな。」
貞世が手を高く掲げた。一斉に兵士たちが崖から弓を乱射する。
トトトッ
わあああああ
「太鼓ぉ、いいかぁ!」
「あたぼおよぉ!」
威勢のいい返事とともにどんどかどんと音が鳴る。
兵士たちが急斜面を滑り降りていった。
「一人残らずしめちまえ!」
「おらおら積み荷寄越せや!」
兵士たちがこなれた動きで標的を蹴散らしていく。実に洗練された動きであった。
「・・・山賊?」
「何を言う。立派な武士のふるまいだ。」
聞き捨てならない言葉をつぶやいた茜に向かって、真摯な顔で訴えた。
「・・・武士?」
茜につられて貞世は崖下の仲間たちに目をこらす。
ちょうど命乞いをする馬引きを切り殺す瞬間が見えた。
「ああ、立派な武士だ。」
「そう。」
間違いない。と断言すると、茜はうなずいた。
「見ろ、ここ数か月、朝に夕にと戦を繰り返したその成果を。素晴らしい練度じゃないか。」
「略奪の手際が上がっただけ。」
「略奪?何をいう。あれは謀反人の後続部隊。物資をたっぷり積んでいる。その動きを鈍らせることで、若狭の敵軍にじわじわと打撃を与える重要な作戦だ。」
「そのわりに結構見逃してる。」
「・・・まあ、ばれないように少数で行動してるからな。ちょっと襲えない場合もあるさ。」
「・・・(じー)」
「・・・なんだよ。」
「まあ、奪った積み荷をお寺に寄付してるのはえらい。立派なこころがけ。」
ね?と茜が問いかける。
「ん?いや、あれは貸してるだけだ。米やら銭やら、年利僅かでも馬鹿にならないからな。」
ほれ、と貞世が証文を見せた。
「・・・でも、貸したって返ってこない。お寺は取り立てにも応じない。実質人助け。」
「いや、一向宗はそういうのしっかりしてるからな。大丈夫だ。宗派が同じならどこの寺でも返してもらえるし。あ、桃井勢に渡してなかったな。」
一緒に略奪したのに成果はこっちだけってのはさすがにひどい。悪かったと詫びて証文を渡す。
茜がしかめっつらで証文を見つめた。
無表情だが間違いない。怒ってる。
「・・・どうした?」
「・・・貞世は立派だなあって思ってたのに。」
貞世は茜を見た。ここ数か月でいくらか日に焼けたが、それでも肌はきれいで髪質もなめらか、移動には護衛がついて回り、飯は一番いいものを食べている。
きっと大切に育てられたんだろう。良いことだ。
貞世はうなずいた。周囲の桃井兵が「なんとかしろ」と目で訴えている。
「寺院に貸付をするのは人助けになる。あいつらは借りた米やらを炊き出しに使い、飢えた民衆を救う。『寄付される』だけでは善意を待つばかりだが、『借りる・返す』という行いは能動的な対応が必要だから、意識を改革させ、より長期的な寺院の活動が可能になる。結果としてただ施しを与えるよりも、民衆のためになっているといえるはずだ。」
べらべらと語る。
「・・・ん。そういうことにしておく。」
茜がじとっとした目でつぶやいた。
「まあまあ、姫様。そう目くじら立てないでくださいな。戦に金はかかるんでさあ。ましてや俺たち、素寒貧ですからね。」
桃井兵が割り込んできた。
「それより、これ。見てくだせえ。」
そういって、懐に抱いた矢の束を見せる。相当な量だ。
「あいつら、近場の村から略奪した後だったみたいですな。」
「略奪?」
「ええ、ほら。」
桃井兵が矢を何本か引き抜いた。
「これと、これ、あとこれ。矢じりも篦も羽根もばらばらでしょう?形も材料も違う。いくら乱造品ったって多少は似通るものですから、これは別々の地域からの寄せ集めということになります。」
「・・・?おかしい話じゃないんじゃないか?細川領のあちこちでかきあつめたんだろう。」
「そりゃあ、まあ。そういう可能性もありますがね。これ、どうぞ。」
桃井兵が貞世に矢を渡す。
「錆びてる?」
「まさか作成過程で血に染めるわけもねえでしょう?田舎は矢が足りねえから、一回使って血で錆びた矢も拾うんですよ。武家に納品する矢との違いはそこですな。」
恐らく、村人が使う矢だと言う。
村人は自前の武器を滅多なことでは拠出しない。というよりかは、何があっても拠出しない。平時であれば狩りや治安維持に必要で、有事であれば身を守るために必要だ。戦の準備をしていた領主が武器を集めようとして、一揆をおこされた話すらある。
だからこそ、村人の武器がここにあるのはおかしい。そういうことだろうと推察されるわけだ。
村を略奪、ね。
存外向こうも余裕がないのか。それとも、それほど質の悪い兵すらも動員しているのだろうか。
そんなことを考えていると、崖下にいた兵たちが駆け上がってきた。
「貞世様!貞世様!」
「どうどう、落ち着け。どうした?」
貞世が手で制するも、兵たちの顔は真っ青だ。
「あっ、新手です!街道を埋めつくす大軍が、すぐそこに!」
春の陽光を浴びた、無数の旗指物が翻る。中央でひときわ大きくたなびくは松笠菱紋の旗。
大大名、細川家の家紋。




