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冷遇された軍神 〜今川了俊の無双物語〜 史実無視のなんちゃって戦記  作者: 山根丸


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24/34

襲撃

 戦には銭がかかる。


 兵糧・武具はもちろん、飼料代やら通行の挨拶料やら、援軍への謝礼やら、戦死者が出れば慰労金に恩給に・・・


 夥しい銭がかかる。その出費を、いかに賄うか。


 選択肢はいくつかある。


 相手から分捕る、主君から貰う、家来から召し上げる。


 あとはまあ、略奪である。


 ※


「いい天気だ。」


 ぽかぽかと暖かな陽気に包まれて、貞世は顔をほころばせる。


 周囲の兵士たちも口々に賛意を示す。


「絶好の襲撃日和だな。」


 貞世が手を高く掲げた。一斉に兵士たちが崖から弓を乱射する。


 トトトッ


 わあああああ


「太鼓ぉ、いいかぁ!」


「あたぼおよぉ!」


 威勢のいい返事とともにどんどかどんと音が鳴る。


 兵士たちが急斜面を滑り降りていった。


「一人残らずしめちまえ!」


「おらおら積み荷寄越せや!」


 兵士たちがこなれた動きで標的を蹴散らしていく。実に洗練された動きであった。


「・・・山賊?」


「何を言う。立派な武士のふるまいだ。」


 聞き捨てならない言葉をつぶやいた茜に向かって、真摯な顔で訴えた。


「・・・武士?」


 茜につられて貞世は崖下の仲間たちに目をこらす。


 ちょうど命乞いをする馬引きを切り殺す瞬間が見えた。


「ああ、立派な武士だ。」


「そう。」


 間違いない。と断言すると、茜はうなずいた。


「見ろ、ここ数か月、朝に夕にと戦を繰り返したその成果を。素晴らしい練度じゃないか。」


「略奪の手際が上がっただけ。」


「略奪?何をいう。あれは謀反人の後続部隊。物資をたっぷり積んでいる。その動きを鈍らせることで、若狭の敵軍にじわじわと打撃を与える重要な作戦だ。」


「そのわりに結構見逃してる。」


「・・・まあ、ばれないように少数で行動してるからな。ちょっと襲えない場合もあるさ。」


「・・・(じー)」


「・・・なんだよ。」


「まあ、奪った積み荷をお寺に寄付してるのはえらい。立派なこころがけ。」


 ね?と茜が問いかける。


「ん?いや、あれは貸してるだけだ。米やら銭やら、年利僅かでも馬鹿にならないからな。」


 ほれ、と貞世が証文を見せた。


「・・・でも、貸したって返ってこない。お寺は取り立てにも応じない。実質人助け。」


「いや、一向宗はそういうのしっかりしてるからな。大丈夫だ。宗派が同じならどこの寺でも返してもらえるし。あ、桃井勢に渡してなかったな。」


 一緒に略奪したのに成果はこっちだけってのはさすがにひどい。悪かったと詫びて証文を渡す。


 茜がしかめっつらで証文を見つめた。


 無表情だが間違いない。怒ってる。


「・・・どうした?」


「・・・貞世は立派だなあって思ってたのに。」


 貞世は茜を見た。ここ数か月でいくらか日に焼けたが、それでも肌はきれいで髪質もなめらか、移動には護衛がついて回り、飯は一番いいものを食べている。


 きっと大切に育てられたんだろう。良いことだ。


 貞世はうなずいた。周囲の桃井兵が「なんとかしろ」と目で訴えている。


「寺院に貸付をするのは人助けになる。あいつらは借りた米やらを炊き出しに使い、飢えた民衆を救う。『寄付される』だけでは善意を待つばかりだが、『借りる・返す』という行いは能動的な対応が必要だから、意識を改革させ、より長期的な寺院の活動が可能になる。結果としてただ施しを与えるよりも、民衆のためになっているといえるはずだ。」


 べらべらと語る。


「・・・ん。そういうことにしておく。」


 茜がじとっとした目でつぶやいた。


「まあまあ、ひい様。そう目くじら立てないでくださいな。戦に金はかかるんでさあ。ましてや俺たち、素寒貧ですからね。」


 桃井兵が割り込んできた。


「それより、これ。見てくだせえ。」


 そういって、懐に抱いた矢の束を見せる。相当な量だ。


「あいつら、近場の村から略奪した後だったみたいですな。」


「略奪?」


「ええ、ほら。」


 桃井兵が矢を何本か引き抜いた。


「これと、これ、あとこれ。矢じりも篦も羽根もばらばらでしょう?形も材料も違う。いくら乱造品ったって多少は似通るものですから、これは別々の地域からの寄せ集めということになります。」


「・・・?おかしい話じゃないんじゃないか?細川領のあちこちでかきあつめたんだろう。」


「そりゃあ、まあ。そういう可能性もありますがね。これ、どうぞ。」


 桃井兵が貞世に矢を渡す。


「錆びてる?」


「まさか作成過程で血に染めるわけもねえでしょう?田舎は矢が足りねえから、一回使って血で錆びた矢も拾うんですよ。武家に納品する矢との違いはそこですな。」


 恐らく、村人が使う矢だと言う。


 村人は自前の武器を滅多なことでは拠出しない。というよりかは、何があっても拠出しない。平時であれば狩りや治安維持に必要で、有事であれば身を守るために必要だ。戦の準備をしていた領主が武器を集めようとして、一揆をおこされた話すらある。


 だからこそ、村人の武器がここにあるのはおかしい。()()()()()()だろうと推察されるわけだ。


 村を略奪、ね。


 存外向こうも余裕がないのか。それとも、それほど質の悪い兵すらも動員しているのだろうか。


 そんなことを考えていると、崖下にいた兵たちが駆け上がってきた。


「貞世様!貞世様!」


「どうどう、落ち着け。どうした?」


 貞世が手で制するも、兵たちの顔は真っ青だ。


「あっ、新手です!街道を埋めつくす大軍が、すぐそこに!」


 春の陽光を浴びた、無数の旗指物が翻る。中央でひときわ大きくたなびくは松笠菱紋の旗。


 大大名、細川家の家紋。



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