雛人形と兵士
厳めしい具足姿の男たちに囲まれて、少女がてくてくと音を立てる。
端正な顔だちは雛人形を彷彿とさせた。
「・・・あなたが貞世?」
「ああ、そうだ。」
こくり
少女が頷く。
「ん、よろしく。」
桃井茜。桃井直常の姪である。
※
戦にひとりで出られるわけもない。さすがのご公儀もそこまで鬼ではなかったらしい。いくらかの手勢の他に、与力をつけると通達があった。
さて、問題だ。
幕府軍主力は細川討伐で大わらわである。南朝や他の不穏分子にも警戒する必要があるなか、謀反人疑いの部屋住み次男坊に預ける兵が一人としているだろうか。
答えは否である。
じゃあ、どうする。簡単だ。謀反人同士集めておけばいいのである。
幕府のカスどもめ。ええ、合理的ですよ。そうですとも。
「厄介者同士まとめられたわけか。」
「そういうこと。」
無表情でうなずく少女を周囲の男たちが複雑そうな表情で見つめていた。
この少女は、直常の屋敷で暮らしていたところ、叔父や従兄が直義もろとも負けてしまった挙句、挽回をはかった京都再占領でも会いに来てもらえず、幕府にとっつかまったらしい。
なんとまあ。
「ところで、なぜ桃井が言いなりになる?西国に逃げちまえばいいじゃないか。今なら簡単だろ。」
純粋な疑問を貞世は尋ねる。そうだ。戦途中に女子供を引き連れることはできずとも、まさか領地に逃げてきた姪っ子を邪見にするはずがない。なぜそれをしないのか。一応同行する以上、理由ぐらい知っておきたかった。
「・・・母様が、北山殿にいらっしゃるの。」
「ああ、難儀だな。」
貞世が淡白な反応をする。周囲の男たちは色をなしたが、主が無表情であるため反応に困っっている。
北山殿とは最近造営された将軍の別荘である。直義派が資金を拠出した。
まあ、早い話がヤリ部屋、いや、ヤリ屋敷である。
足利一族の情欲を詰め込んだ建物と聞く。
謀反人の妻女は、恰好の獲物だろう。
あどけない少女とそんな話を続けるのもあれな上に、《《その手の話》》を聞くといまだに物を壊したくなる貞世は話を切り替えた。
「で、話は通っているのか?」
「ん。」
こくり、と少女は頷く。
・・・なにが、どこまで共有されているのかわからない。
見かねて周囲の男たちが口を開いた。
「我ら桃井勢80名、今川殿に合力いたす。先遣隊として謀反人の鼻っ柱を叩けと伺った。」
貞世が頷いた。
「剛勇無双の桃井兵と戦えるのは心強い。よろしく頼むよ。」
齢は下でも立場は上だ。貞世は桃井兵に語り掛けた。
複雑そうな顔をしている。
向こうにとっては蹴散らした相手だからな。不安に思うのも無理からぬ話だ。
心の中で首を振っていると、桃井茜が首を傾げた。
「そちらの兵は、それだけ?」
貞世は後ろを振り向く。
「ああ、都に駐在する30名と、家臣が連れてきた200名。以上が今川の兵力だ。」
なお、200名を駿河から連れてきた殿村は帰ったらしい。薄情な話だが、あれで譜代の家臣だ。今川家としてもこんな戦にやるわけにはいかないのだろう。
「細川兵はどのぐらい?」
貞世は目を泳がせた。
細川一族が守護職に就いている国は、阿波・河内・讃岐・若狭・摂津。このうち細川清氏が守護職を務めているのは河内・若狭・讃岐。
延喜式と動員可能兵数は大体比例するから・・・
「清氏単独だとして、最大8000。細川一族も参加するならもっとだな。」
は、はっせん?
後ろに控える今川兵が絶句した。
桃井兵の顔色も悪い。
「まあ、清氏の領国は飛び地だし、こんな急に総動員なんてできやしない。大体領国内にも幕府派の国人は多いだろうから、せいぜい2000・3000人程度だろう。」
空気がやや落ち着く。
まあ、それなら・・・というよりかは、さっきよりましかな・・・という雰囲気である。
甘い。300人そこらにとって8000人も2000人も変わらない。
瞬殺である。もちろんこっちが。
「なんにせよ、行くしかない。」
貞世が少女を見た。
「ん。」
・・・まあ、いっか。
※
細川清氏討伐軍第一陣、行軍開始。
今川・桃井連合。兵300余名。




