釈放
「出ろっ!」
乱暴に腕をつかまれ、立たされる。
やや低い天井に頭をぶつけた。
牢番は顔をしかめながら貞世を引っ張りだす。あるいは彼も、この土牢の悪臭に耐えかねているのかもしれない。
ずりずり、どさっ
丘をくりぬいて作られた穴から、外へと放り出される。
数十日ぶりの陽光は、ひどくまぶしかった。
※
殿村と会って数日で、なぜか土牢から出された。
頻繁に土牢から連行されては暴行を受けてきたが、いつも目隠しをされていたので、直接外界を見るのは随分と久しぶりである。
感慨深くもなんともない。
土牢から出たり入ったりしていたので足腰もさほど弱ってはいないが、別にそれもどうでもいい。
殿村に泣いて懇願されたので、とりあえず死ぬのはやめておいたが、だからといって生きる気にもなれない。
そういえば、なぜ放り出されたのだろうか。
疑いが晴れた?いいや、そんなことはなかろう。端から言いがかりなのだから。
疑念はすぐに解消された。
右耳の欠けた男が、いやらしい笑顔で貞世を迎える。
「やあ、娑婆の空気はどうだい?」
「・・・絶品です。」
「ははは。そうかね。」
渇いた笑い声。
まったく笑っていない目の奥。
嫌な感じがした。
「実はね、君の御父上から要請があったのだよ。謀反の疑いはまったくの事実無根だ。戦場で勇を振るうことで証明させてほしい、と。」
「・・・」
つまり、なんだ?
俺を人質に、今川の兵を動員する目論見だったのか?
貞世は考え、すぐに振り払った。
次男坊は、家臣も同然だ。すでに限界ぎりぎりの家の力を、さらに削ぐような行いをするわけもない。
父は気さくだが当主としての線引きを誤る男ではないし、母や兄はむしろ貞世の死を喜ぶだろう。
忠誠を示すのであれば貞世の腹を切らせればいいのだ。そう父が宣言すれば、幕府に止める権利はない。つまり、今川の力を討伐に使うという目的で、貞世を捕らえるということはない。
「実はな?」
ぐるぐると考えを巡らせていると、右耳と共に心も欠落したらしい男は、にやりと笑った。
「お主の仲間たちからも懇願されたのだよ。機会を与えてやってくれ、と。」
良い仲間を持ったなあと、けたけた笑う男。
なぜ笑うのか。
仲間とは誰だ。侍所のみんなか?
性根の腐っていそうなこの男が笑うのだから、なにかしらあるのだろう。
つまり、賄賂をたっぷり受け取ったとか、対価としてろくでもないことをやらされるとか。
「そういうわけだから、すぐに支度をしろ。」
「・・・なんのでしょうか。」
これみよがしに溜息をつかれた。
「まったく、これぐらいは察するべきだろう。まあ、ボンボンには厳しいか?」
神通力でも身につけていない限り難しいと思うのだが。
だが、まあ。
貞世は心の中で溜息をついた。
どんなことを言われるかはわかる。
「戦の支度だ。謀反人を討伐し、忠義を示せ。」
ほらみろ。実にろくでもないことだ。
☆
なかなか物語が進みませんね。もどかしいです。




