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冷遇された軍神 〜今川了俊の無双物語〜 史実無視のなんちゃって戦記  作者: 山根丸


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土牢

 かび臭い土牢の空気に肺がやられた。


 時折ごほごほと咳が出るが、周りにはだれもいない。


 真っ暗な空間。


 昼か夜かもわからない。


 暴行された傷は癒える気配を見せず、じくじくと痛みが続いた。


 空気はよどむ。心もよどむ。


 暗い方へ、暗い方へと意識が流れていった。


 ぴちゃり


 水滴が頬に落ちてきた。


 右手になにやら違和感を感じ、振ってみると何かが手の甲から離れていった。


 ぞわっと鳥肌がたつ。


 ごしごしと右手をぬぐう。左目から涙がつたった。


 禍福は、糾える縄の如しというじゃないか。


 幸不幸、交互に来いよ。


 なんで嫌な事ばっかり立て続けに・・・


 ぴちゃり


 水滴を、ごしごしと拭う。


 執拗に、ごしごしと。


 真っ暗な空間。


 何もわからない。


 暗い気持ちはさらに沈んでいった。


 ・・・いっそ、舌を噛んでやろうか。


 そうだ。そうすればもう二度と、みじめな思いをしなくてすむ。


 そもそも、生きてきた理由なんてない。


 漠然と寝て起きて、寝て起きてを繰り返しているだけだ。


 薫子の、真っ白な肢体が頭に浮かんだ。


 にやついた、あの男(範氏)の顔。


 がりっ


 歯を食いしばる。


 そうだ


 そうだ


 薫子は、もう()()()


 もういないんだ。


 ぴちゃん


 水滴が、額に落ちた。


 真っ暗な空間。


 貞世は口を大きく開いて・・・


「貞世様!」


 止まった。


 ぼうっ


 松明の明かりがすべてを照らす。


 久方ぶりの光に、目を閉じた。


「・・・まぶしい。」


「貞世様!ご無事か!」


「・・・無事に見えるのか。」


 思わず、悪態をついた。


 この数年で、もっとも信頼するようになった人物は、ばたばたとこちらに駆け寄ってくる。


「貞世様!三郎にございます!」


「・・・わかってるよ。」


 振り払うように手を動かす。


「ああ、おいたわしや。あの者ども、どうしてくれようか。」


「いい、いい。」


 煩わしそうに手を振る。


「・・・いい?いいとはなんですか。なにが良いとおっしゃるか!」


 いつものごとく声を張り上げる殿村。狭い土牢が音を吸収した。


「どうにもならんだろ。」


「・・・この期に、及んでっ。」


 殿村が、貞世の眼前に顔を持ってくる。


 ぐっ


 身体を起こした。


 痛みが走る。


「っつ。」


「・・・貞世様。幾度となく申し上げてきたことではございますが、そこまで頑なに拒むのであれば、この殿村、もう申しません。これが最後でございます。」


「・・・なんだ。」


「よろしいですか。」


「っなんだ!」


 自分の物ではないような身体の状態なのに、声はしっかりと出た。


 あるいは、心の声が出ているように感じただけかもしれない。


「強く、強くありなされ。」


 殿村が、震える右手を貞世の肩に載せる。


 ずきり


 痛みが響いた。


「強くあるのです。主君の権勢を借りて己を誇るようなカスどもも、父祖の功績にあぐらをかいて威張る馬鹿どもも、すべてを圧するほどの力を!」


 ふりしぼるような声。


 松明を地面に打ち捨て、殿村ががっしりと貞世をつかんだ。


「奪うのです!すべてを!何者にも妨げられるように!」


「・・・くどいよ。」


 なにが、できると言うんだ。


 一人の少女すら他人に取られるというのに


 自分の身すら守れないというのに


 なにが・・・


「貞世様っ!」


 つばが、顔にかかる。


「よろしいですなっ。あなた様は、武士なのですっ!」


 肩が、みしみしと音を立てて軋んだ。


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