理不尽
『細川清氏、謀反。』
鎌倉打倒以来の功臣、次期宰相の呼び声高い大大名の凶行に、幕府は慌てふためいた。
なにが不満か。なにがあった。
話を聞くため送った使者はさらし首になり、嫁いでいた足利の娘もぼろきれ一枚で放り出された。
恐慌状態に陥った大広間で、尊氏が無表情で告げた。
「理由いかんに関わらず、謀反は大罪。帝に叛く輩は早急に誅するべし。」
即座に兵が集められた。厳冬のなか、主に近江以南の諸侯が招集された。
幕府の懸念点はふたつ。
足利直冬はじめとする反幕府勢力が便乗しないか。
細川清氏に同調するものはいないか。
いかに大大名といっても、しょせん数か国の主にすぎない。日の本68ヶ国の大半を占める室町幕府に、単独で挑むはずがない。
清氏の領地は阿波・河内・若狭。どれも京都以西である。すなわち反幕府勢力の色が濃い。
連携を恐れた幕府は内密に造反者を調べた。
細川はまずい。直冬がくるともっとまずい。そこに内部から離反者が出ればおしまいだ。
疑いの目を向けたのは、旧直義派諸侯。
冷遇してきただけに、裏切ってもおかしくないと見たのである。
九州に送り込んだ斯波家。北陸奪還のために大遠征をさせている上杉家。駿河平定と上野奪還に単独で挑ませている今川家。土岐・佐竹、他数家。
日ごろの言動に不満が滲んではないか。怪しい動きをしてはいないか。
静かに調べた。そのなかで疑いが深まった者を拘束することにした。
存亡の危機なのだ。
疑わしきを罰する。
それが足利のやり方であった。
※
ドガッ
ボコッ
薄暗い一室に鈍い音が響く。
薄れる意識のなか、貞世は痛みにうめいていた。
「言え!なにを漏らした!」
「謀反人め!恥を知れ!」
大男に代わる代わる殴られる。
やっていない。知らないと答えても、一向に聞く耳をもたない。
何時間経ったのだろう。
朦朧とする意識は、冷や水をぶっかけられたことにより覚醒した。
顔を上げると、右耳のない男がいた。
「いい気なもんだな。え?将軍様のご温情に唾を吐くとは。」
「・・・やって、い、ませ、ん。」
「まだ言うかっ!」
側に控えていた男が青筋を立てて貞世を蹴る。
右耳のない男が制止した。
「あのなあ、もう証拠は上がってるんだ。随分親しい仲だったんだって?それにおまえ、最近『人が変わったように暗い』らしいじゃないか。謀反人にも良心が少しはあるらしいな。」
・・・は?
呆然とする貞世にもう一発拳が飛んでくる。
痛いっ
「・・・ちっ。」
右耳の男が舌を鳴らす。
「なあ今川ぁ。貴様らの魂胆は見えているぞぉ?清氏討伐でがら空きになったところを襲う気だろう。一色も斯波も将軍様の忠臣。多くの兵を出すだろうさ。」
再び蹴られる。
「え?駿河の南朝とはいつ話をつけたんだ?清氏の狙いはなんだ?」
蹴られる
くそっ
くそっ
くそっ
知らない。知らない。謀反ってなんだ。清氏と仲良くしたことなんて一度もない。石山寺で頭下げたっきりだ。
痛みに耐えながら、細川清氏の周囲にいた男たちを思い出す。
にやついた、ねばついた笑みを浮かべた連中。ここぞとばかりにあることないこと言いふらしているのだろうか。
蹴られる
もはやうめき声も出なかった。
「ふん。」
土牢にぶちこんでおけ、という声とともに、貞世の意識は消えていった。




