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冷遇武家の次男坊、乱世に揉まれる。今川了俊物語  作者: 山根丸


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17/17

貞世13歳、秋。

「女郎屋に行こう」と誘われたのは、侍所に勤めて二年目の秋のことであった。


 今川の一族として誰に憚られる行いもせず、おさおさ抜かりなくやってきたけれど、年頃の男児であるので当然色事に興味はあった。


 そんなわけで、悪い先輩に連れられて京都の色町に足を運んだのである。


「さて、後輩。お前に伝えなきゃならんことがある。」


「はい、先輩。」


 貞世に親し気な顔で向き合う男の名を一色正義という。尊氏派重鎮一色家の者なれど、当主の従兄という微妙な立場ゆえに侍所に出向している


 なにを気に入ったのか知らんが、貞世にやたら好意的であった。


「ここは秋月屋、格でいうところの中堅だ。女郎屋の格はわかるか?後輩。」


「いえ、わかりません。先輩。」


 色を売ることを生業とする女性を、遊女という。白拍子やら傀儡やら、夜鷹やら、まあ色々呼称はあれど、総して「遊女」である。


 遊女は大別して三種類、「店付き」「村付き」「家付き」である。


 個人でやってるやつらは「家付き」に属する。


 宿場の飯盛女なんかは「村付き」という。


 街の女郎屋にいる女どもは「店付き」である。


 まあ、知らなくても良い話だ。


「さて、女郎屋の格は、ずばり女の質によって決まる。」


「ほう。」


「最下級の女郎屋は、あばた面やら年増やらが筵の上で客を迎える。昼飯を我慢すれば買える。」


「はあ。」


「最上流の女郎屋は、公家の令嬢やら上級武士の娘さんやらがいる。当然値段はとんでもない。」


「とんでもない。」


「大きな商家の主が、一晩の夢のために店を潰すほどだ。」


「おお。」


「で、ここ秋月屋は中堅だ。値段はそこそこ。女もそこそこ。」


「ふむふむ。」


「さて後輩、俺が何を言いたかったかわかるな。」


「はい先輩。」


「よし、それでこそ後輩だ。で、何を言いたかったと思う?」


「我慢できなくなったら、昼飯を抜けと。」


 ぽかりと頭を殴られる。


 痛い。


「馬鹿野郎め。下ばっか見てどうすんだ。」


「すみません。」


「いいか、後輩。」


「はい先輩。」


「最上級の女郎屋に公家の女がいる。」


「はい。」


 さっき聞いたな。


「公家の女を、《《買える》》んだ。」


 さも重大そうに先輩はいった。


 貞世は、いまいち呑み込めない。この先輩は何を言いたいのか。


 深い意味でもあるのかと注意する。


「抱いてみてえなあ公家の女。どんな匂いがするのかなあ。」


 先輩は身もだえた。


 貞世はため息をつく。


 どうやら言葉以上の意味はないようだ。


 こほん、と先輩が咳払いをした。


「まあ、そういうわけで女郎買いには夢がある。初めて味わう後輩にとって、今日の体験は夢見心地となるだろうが、けっして満足しないように。」


「はあ。」


「なんだその気の抜けた返事は。かね出してやらねえぞ。」


 貞世は直立不動になって頭を下げる。


「先輩、自分精進します!」


「うむ!よろしい。では、行こうではないか!」


「はい!」


 一色行義がのれんをくぐる。


 貞世がいそいそと後に続いた。


 桃井からの敗走と直冬との邂逅から、3年。


 貞世は都会の男(シティボーイ)になりつつあった。


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