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冷遇武家の次男坊、乱世に揉まれる。今川了俊物語  作者: 山根丸


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13/23

武士の在り方

 「ふうぅ。」


 貞世が深く息を吐いた。


 こきこきと肩を鳴らし、大きく身体を伸ばす。


 平素なれば礼儀だ威厳だと口うるさい殿村も無言で待機している。


「・・・不快だな。」


「は。」


 清氏率いる尊氏派にさんざんいびられ、やっと解放されたが、精神的疲労はぬぐえなかった。


 直冬に内応しているといわんばかりの大合唱だが、反論はできない。あくまで一般論を語っているにすぎないのだ。あそこで「今川は裏切っていません。」などと言おうものなら「なぜそんな当たり前の話をするのか。さては裏切っているのだな。」と難癖をつけられかねない。


 立場の弱い今川家うちはおとなしくするしかないのである。


「ま、仕方ないか。」


 切り替えていこう。


 最後にぐっと腕を回して、歩き出そうとしたその時、殿村にガッと肩をつかまれた。


「若様。」


「・・・なんだ。」


「仕方ない、ではありませぬぞ。」


 ・・・またか。


 殿村はことあるごとに説教してくる。貞世を思っての言であるので普段はおとなしく話を聞くが、今は疲れていた。


「ああ、わかってる。」


 おざなりな返事をして殿村の手を払う。


 威厳がどうとか面子がどうとか、そんな話だろう。


「いいえ、わかっておりませぬ。」


 渋い顔、いや、怖い顔で断言する殿村に、いらいらした。


「なにがだ。」


 顔をしかめて尋ねる。


「殿のお言葉をお忘れか。」


 殿の言葉?なんだそれ。


「『恵まれていないものは立ち上がらなければ得られない。』。」


 ・・・ああ、そんな話もあったな。


「あれは心持ちのはなしだろう。奮い立って生きていけと。」


 殿村は首を左右に振る。


「あれは武士の心得です。あらゆる場で、行動の指針になるもの。」


「ふんっ。」


 貞世は鼻で笑った。


「じゃあなんだ?あの場で机をたたいて怒鳴ればよかったのか?なめてんじゃねーぞって?」


 冗談めかした貞世の言葉。


 殿村が、貞世の目を見た。


「左様です。」


「・・・は?」


「左様ですとも。」


「・・・い、いやいや。何言ってる、そんなことをすれば次は今川家うちが討伐対象だ。」


 貞世は冷や汗をかきながら殿村を押しのけようとするが、びくともしない。


「その通りです。」


「・・・」


 もはや、何を言っているのかわからなかった。


「舐められたらしまいなのです。下に見られてはいかんのです。一戦交える覚悟を、いえ、一戦交えてこそ、武士は武士足りえる。」


「・・・鎌倉の時代じゃないんだ。所領を没収されて終わりだろ。」


「だから、なんですか。」


「・・・あ?」


「源平のころ、伊勢の地侍たちは平家に義理立てし、数倍の源氏軍に立ち向かったそうです。結果は惨敗、お家は潰され、主だった武将は斬首、妻や娘は妾にされたとか。」


「・・・ああ。」


 悲惨じゃないか。


「しかし、彼らの子孫は今、伊賀や伊勢の地で権勢を張っているとか。」


「それは、あれだろう。鎌倉府打倒に合わせて旧平家方が盛り上がっただけだろう。」


「そうですな。しかし、源氏にこびへつらっていては潰されていたでしょう。」


「・・・」


「もちろん源氏方で隆盛を極めている家も多い。足利はその筆頭ですな。しかし、彼らも武士として生き続けたわけです。いわれもない疑いをかけられるたびに、執権を脅し、鎌倉府のやり様を嘆いて当主は自刃した。これで足利家は「気骨のある」家と称され続けたのです。」


「・・・」


「強く、強くありなされ。」


 うつむきながら殿村の話を聞いていた貞世は、頭を上げた。今のセリフに聞き覚えがあった。


『強くあれよ』


 ・・・


「強く、ね。」


「はい。」


「名代なんだろう、俺は。」


「まあ、そうですな。」


「名代が出張っちゃいかんだろう。」


「む。」


 押し黙る殿村に、皮肉気に笑いかけながら、ひらひらと手を振る。


「さ、父上に挨拶するか。」

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