嫌な奴ら
石山寺は、妙な雰囲気だった。
「今川殿、入られます。」
案内役が声を出し、天幕を上げる。ジェスチャーに従ってくぐると、鎧武者たちの視線が突き刺さった。
「今川家到着いたしました。」
ぺこりと頭を下げる。前回清氏と会った際は正式な対面の場であったため礼は必須だったが、こんな陣中で長々と返礼式なんてやっていてはそれこそ非難を浴びる。
言葉は簡潔にとどめ、場に残る。後は「よくやった」の一言があれば退出できる。
「うむ。」
座の中央、巨大なヒグマが鷹揚にうなずく。後続部隊のとりまとめ役であるこの男は、石山寺に居座っている。
あの後、桃井の攻撃により一時大混乱に陥った京都は取り返せたものの、桃井も直冬も取り逃がしたらしい。
痛み分け、いや、直冬の武名が高まっただけに負けといってもいい状態だった。
当然この場の空気も悪い。とげとげしていた。はやく帰りたいと願いながら地面の石を数えていると、声がかかった。
「今川殿、随分と兵を引き連れておいでのようですなぁ。」
・・・は?
のっぺりした男の呟きに、頭が追い付かなかった。100人いた兵は、今30人弱にまで減少している。壊滅といってよい。
「いや、さすがは武勇誉れ高い今川の兵じゃ。」
「まさに。」
頷き合う鎧武者たち。気味が悪かった。
「しかし。」
意図が読めず困惑していると、やたらごてごてした装飾の男が口を開いた。たしか 一色家の武将。
「桃井の動き、《《妙に》》早うございましたな。」
ねっとりしたその声。
一声発したとたん、待っていましたとばかりに、武将たちが声を上げる。
「たしかに。素早かったですなあ。」
「あの佐々木殿の兵が対応できなかったとか。」
「佐々木殿の甥御は討ち死にされたそうですな。」
「当主をかばって?いや、さすがは佐々木殿の血ですな。まさに武士の鑑。」
「そうですな。昨今は主も守らずにわが身惜しさに逃げる者もおるとか。」
「なんと、それは武士の風上にも置けませぬなあ。」
「いや、それにしても桃井は早かった。」
「うむ。まるでわれらの動きを知っていたかのような。」
「おや、異なことをおっしゃる。われら尊氏様に忠誠を誓った身、直義なんぞに尻尾を振るやつばらに与するなど。」
「ありはしませんなぁ。」
わはははっ
武将たちの汚い笑い声が響く。
笑い声とともに、嫌な視線が集中しているのが感じ取れた。
後続部隊は主力である尊氏派と、張りぼて軍である旧直義派で構成されている。軍議にも役立たずなので旧直義派は呼ばれず、挨拶にくるのみ。
ここに旧直義派は、うちだけ。
武将たちの笑い声が、いつまでも耳に残った。




