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冷遇武家の次男坊、乱世に揉まれる。今川了俊物語  作者: 山根丸


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11/23

合流

 雨は止んだ。恐ろしい武者はどこかへ行った。八幡宮にたどり着き、味方とも無事合流できた。いいことづくめ、万々歳である。


 なのになぜだろう。こんなに後悔してるのは。


「若様!」


 翁の怒声を一身に受ける。やめて、刃こぼれした刀振り回さないで。


 合流し、一夜。大和国にいても埒が明かないということで、近江の国に移動することになった。


 徒歩で。


 おわかりだろうか。徒歩である。京都から逃げてくるときも徒歩だったが、あのときは何も考えず全力疾走していたので疲れも感じなかった。


 脇目も降らずに遁走し、火事場の馬鹿力をもってしても5日かかったのである。


 こそこそと隠れながらとなればその労力たるや。


 で、殿村に言ったのである。馬、売ろうぜって。


「馬は、武士の魂ですぞ!言うに事欠いてなにを!売る!?売るですと!?」


 するとこのざまである。そりゃあたしかに悪かった。自分の馬を捨ててでも後生大事に連れてきた馬を、売るといわれたら腹も立とう。しかし、この馬は範国が「初陣祝いだ。くれてやる。」と言ってくれた馬。好きに使おうじゃないか。


「まあ、聞け殿村。徒歩で敵から身を隠しつつの移動はどれほど大変だ?この馬を売って金を拵え、船賃にしたほうがよかろう。なんとか西に行ってだな、こう、ぐるりと遠江まで船で。」


「いかんのです!」


 青筋を立て、殿村が言う。


 思わずむっとすると、殿村が肩をつかんだ。


「よいですか。若様。あなたは『今川家名代』としてここにいるのです。馬を売ったとなれば他家の前に出ることもできぬし、顔も見せずに本領へ帰ったとなれば。」


「なれば?」


「謀反を疑われます。」


 ・・・わお。


「直義様に長年付き従った当家は、いまだ疑いの目を向けられているのです。無理をしてでも忠誠を見せねば。」


「しかし、それでは。」


 殿村が、貞世の視線の先を見た。


「・・・若様。」


「・・・なんだ。」


「やむを得ませぬ。」


「死んじまうよ、あいつら。」


「やむを、得ませぬ。」


 桃井軍の攻勢により、幾人もの死傷者がでた。ここまで一緒に逃げてきたなかにも、けが人は多い。


 死んじまった奴はどうでもいいが、生きてるやつを見捨てるのは気が引ける。けが人が、再びの山越えは、きつい。


 京都がどうなっているかわからない。尊氏軍が占領している気もするが、直冬が制圧し続けている可能性もある。


 となると帰還ルートとしてはぐるりと東に回り、伊賀の国を抜けて近江までいくしかない。


 険しい道のりになる。


「若様。」


「・・・」


「配下をおもんばかる姿勢は素晴らしい。しかし、それだけでは御家は保てませぬ。」


「・・・」


 殿村は息を吐くと、提案した。


「傷を負ったもの達は、ここらの寺に預けましょうぞ。いくらかの金を包めば、傷が癒えるまで置いてくれまする。」


「そののちは?」


「そののちは、荷運びなりなんなりをして日銭を稼ぎ、遠江まで自力で帰らせましょう。戦続きでありますから、少し大きな街にでれば仕事には困りませぬ。」


「・・・」


 貞世は無言で懐から短剣を取り出すと、こちらを見る傷だらけの男に近寄った。


「八兵衛。」


「は!」


「聞いていたな。」


「は!お任せください。われら殿に尽くす所存であります。いずれ必ずや、遠江の地を踏みましょうぞ。」


「苦労を、させる。」


 貞世は短剣を八兵衛に手渡した。


「遠江に帰り次第、それを見せろ。忠義の士たるお前らに、報いよう。」


 押し抱く八兵衛に金子を渡すと、貞世は背を向けて歩き出した。


 ※


 10日後、今川家名代一行は石山寺の門をくぐった。


 兵は、三分の一に減っていた。



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