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騎士の娘は公爵の「お手付き」を目指します  作者: 中里勇史


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女官になることにしました

 騎士になることをすっかり諦めた私は、騎士として家を継ぐのは弟たちに任せることにした。任せるも何も、私の意思など関係なく、弟が継ぐのだが。

 私は、女本来の生き方に立ち戻ることにした。私は別に自分の人生で奇をてらいたい訳ではない。平凡でよいのだ。

 という訳で、上級貴族の女性に仕える女官としての作法見習いに集中することにした。

 騎士の娘は、女官として働きながら親が縁談をまとめてくるのを待つものだ。嫁ぎ先は、同程度の家格の騎士だろう。騎士の娘の行く末などその程度しかない。


 一三歳になった頃、奉公先が決まったと父に聞かされた。父は少し興奮していた。

「お前はワルヴァソン公の宮殿に上がることになった」

 一三年の人生で、一番驚いた。驚いて三〇セルほど飛び上がった。いや、三三・七セルくらいは飛んだかもしれない。

 ワルヴァソン公といえば、父の主人のそのまた上の君主である。父の身分からしたら、奉公先など、ワルヴァソン公国の小領主のお屋敷あたりが順当なところだ。一体どこでどうやって、ワルヴァソン公の宮殿にお仕えできる機会を得たのやら。ひょっとしたら父は大層な人物なのではないかと見直しかけたが、父の膝が震えているのを見て安心した。父は父だった。尊敬できる父ではあるが、まあ……ただの騎士である。

 こうして、私はワルヴァソン公の宮殿に上がることになった。

 奉公先がワルヴァソン公の宮殿なら、お手当も期待できるだろう。嫁ぎ先選びでも少しは有利になるに違いない。


 だが父の思惑は少し違った。

 父は、「お前は美しい。もしかしたらワルヴァソン公のお手が付くかもしれぬ。頼むぞ」と言ったのだ。

 私は……美しいのか? 自分ではよく分からない。そもそも自分の顔をちゃんと見たことがない。

 私の家にある鏡は、金属を磨いたものだ。古いせいか所々錆びているし、ぼやけているし、少しゆがんで見える。鏡に映る自分の顔は、常にゆがんでいる。何というか……左の頬がボコッと膨らんで見える。水銀と錫を使ったガラス製の鏡ならば奇麗に映るそうだが、高価なので裕福な貴族しか持っていない。ワルヴァソン公の宮殿に上がれば、見る機会があるかもしれない。


 父や母は私のことを美しいと言ってくれるが、身内の評価をどこまであてにできるだろうか。話半分、くらいに考えておくべきだろう。つまり、私はさほど美しい訳ではないのだ。

 何にせよ、ワルヴァソン公のお手付きになれば父の出世の助けになるだろう。家格が大して高くない家の女が這い上がるなら、そういうことも必要だろう。覚悟はできていた。


 お手付きというものについて、完全に理解していた訳ではないが。

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