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騎士の娘は公爵の「お手付き」を目指します  作者: 中里勇史


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2/2

騎士になるのは諦めました

 一人目の弟が生まれた当時、私はまだ幼かったので世の理を知らず、自分は騎士になるのだと漠然と考えていた。別に深い理由があった訳でもなければなりたかった訳でもなく、単に父が騎士だったからだ。

 長ずるに従って、私が騎士になるのは不可能であることを知った。だが、それを納得するまでには少し時間がかかった。


 騎士になれないことを理解し始めた当時、私はすっかり騎士になるつもりになっていたので意固地になった。「騎士になるのだ」と言って、周囲の大人を困らせたり笑われたりした。

 あまり思い出したくない過去だ。親族たちは今でも当時のことを肴に酒を飲んで笑う。

 不快だ。

 子どもの頃のたわ言をいつまでもほじくり返すな。


 私のささやかな抵抗は長くは続かなかった。身をもって思い知ったのだ。「女が騎士に叙任されることはない」という制度的な制約はもちろんだが、それ以前の問題として物理的、肉体的に女が騎士になるなどということはあり得ないことを理解したのだ。

 無理だ。

 私はとても騎士にはなれない。いや、女では騎士にはなれない。


 まず、甲冑が重過ぎる。あんなものを着て行動するなど、考えられない。着たことはないが、その必要はなかった。父の甲冑を持ち上げようとしただけで、無理だと分かった。

 父に、甲冑を軽くすることはできないのか、と尋ねたことがある。父は「不可である」と答えた。

「甲冑には、矢や剣を防ぐという役割がある。そのためには強度が必要だ。必要な強度を持たせると、どうしても重くなってしまうのだ」

 父の説明は実に単純明快だ。

「軽くしたら防御力が下がり、甲冑を着る意味がなくなる。敵の攻撃を甲冑がある程度防いでくれるからこそ、攻撃を避けることをあまり考えずに攻撃に専念できるのだ。甲冑が役に立たないとなれば、思い切って間合いに踏み込めない」

 父は、そう言って優しく笑った。

 甲冑を軽くできないのであれば、重い甲冑を着けても動ける力をつけるしかないという訳だ。

 実際、父の手足は固い筋肉で覆われていて、丸太のように太い。甲冑を着るにはこの筋肉が必要なのだ。父は、「あの重い甲冑を着て走ることもできるのだぞ」と言って胸を張った。

 父の友人であるという騎士が訪ねてきたことがある。ずんぐりとした体形の父と異なり、彼はすらりとしていて細く見えた。だが、やはり腕は筋肉で覆われていて固かった。


 騎士は、武器も使えなければならない。父の剣は、それはもう重かった。重い鎧を着て、さらにこの剣を振り回すのだ。私は再び絶望した。

 剣だけではない。槍も使うし弓矢も使う。槍は剣よりも長い分、重く感じた。弓は固くてとても引けない。十分に引けなければ矢は飛ばない。父によると、この弓よりもっと重い弓を引く者もいるのだという。


 騎士になりたいと思っていた私をさらに打ちのめしたのは、馬だ。私も騎士の家の娘として乗馬を嗜み、馬を自在に操れる。だが、騎士の乗り方は種類が違った。乗るだけではなく、武器を振り回すのだから。

 鐙を踏みしめるだけでは体は安定しない。馬上で重い武器を扱うためには、足全体で馬の胴体を挟んで足の力で体を固定するのだ。

 筋肉はもちろん、足の長さも必要だ。短い足では馬の胴体を効果的に挟めないし、力も入らない。ここでも女は不利だ。一般的に、女は男よりも身長が低い。背が低ければ、当然足も男よりは短い。馬に乗って戦うには、「男の足の長さ」が必要なのだ。

 鐙のおかげで今はマシになったらしいが、「鐙が発明される以前は馬の胴体を足で挟む力だけで体を固定していたのだ」と言って父は何とも言えない顔をした。

 騎乗して戦うというのは、極めて特殊な技能だったのだ。騎乗する戦士が特別な階級として特権を与えられたゆえんだ。騎士とは、何百年も昔の戦士階級を起源とする名誉ある存在なのだということを、改めて認識させられた。

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