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騎士の娘は公爵の「お手付き」を目指します  作者: 中里勇史


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父は平凡な騎士でした

本作は「名もなき帝国の物語」シリーズの登場人物の番外編です。

『居眠り卿とナルファスト継承戦争』『居眠り卿と木漏れ日の姫』『居眠り卿と純白の花嫁』の後がおすすめです。

 父のたっての願いにより、私は公爵の「お手付き」を目指すことになった。公爵の「夜のお相手」を務めれば、父の立身の助けになるというのだ。「お手付き」や「夜のお相手」というものがどういう意味なのか、完全には理解できてはいないのだが。

 私は無口・無表情なのでイマヒトツ伝わらないと思うが、それなりに張り切っていた。すっかりそのつもりだったのだ。


 信じろ。


 ただ、「お手付き」を目指すことになるまでには若干の勘違いと挫折、そしていまだに訳の分からない偶然があった。


 私は、ごく平凡な騎士階級の家に生まれた。困窮するほどではないが、大して豊かでもない、実に中途半端な家だった。衣食住に困ったことはないが、贅沢をしたこともない。だからこの点について語ることは何もない。零細騎士の生活など、「裕福な農民」と大して変わらない。


 私が生まれたとき、私が女だったので父は大層落胆したそうだ。女では家を継げないからだ。

 幸い、三年後には弟が生まれた。とはいえ子供、特に乳児の死亡率は高いので、一人だけでは父は安心できなかった。そこで父はさらに子を得ようと努力して、最終的に三人の男児を得た。

 弟が生まれたのは結構なことだが、謎が残った。子を得るために、父は一体何をどう努力したのだろうか。

 この点について父に直接聞いてみると、いつもは明快に答える父が言葉を濁してどこかに行ってしまった。仕方がないので、母に聞いてみた。「父は子を得るために何を頑張ったのか」と。母は少し困ったような顔をして、「それなりに頑張りましたよ」と言ってホホホと笑った。


 謎はますます深まった。


 三人目の男児が生まれたことで、父はようやく安心した。しかしその直後、父の旧知で領地も隣接している騎士の家で、流行り病によって子が一度に五人死んだ。ついでに、というのも妙な表現になるが、当主の騎士本人も死んでしまい、その家は断絶してしまった。

 それを知って父は大いに狼狽し、側室を持つことも考えた。だが経済的な理由から断念した。零細騎士にそのような余裕はなかったので、父は三人の子に賭けることにした。

 今のところ、父は賭けに勝っていると言える。私の弟たちはまだ全員生きているからだ。


 私の家について、こうして改まって語ってみると、何もかもが平凡だった。断絶の不安に怯えるのも、断絶してしまうのも、どこにでもある話だ。語るほどの価値もない話だ。

 「昼間のろうそく(昼行灯)」のような父だが、実は若い頃は帝国中に名を轟かせた伝説の英雄で……ということは全くなく、わずかな領地から上がるささやかな税収のやりくりに頭を悩ませているだけだ。


 領地が増える気配はなく、抜け毛だけが増え続けている。

 だが、抜け毛が増える心配は近いうちに解決するだろう。もうすぐ、抜けるべき毛がなくなるのだから。

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