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エピローグ







王宮の近くにあるクラヴィルド公爵家は、町の屋敷の中でもひときわ大きく、重々しい空気を纏っていた。

乗合馬車で近づくその威容に、息苦しささえ覚えるほどだ。


屋敷のどこかに彼はいるのだろうか。

部屋に籠っているのか、それとも騎士団の任務中か。

気づけば、女の思考は彼のことばかりに囚われていた。


覚悟してここまで来たはずなのに、後ずさりしたくなる足を叱咤して前へ進む。

仮面と布で顔を覆い、闇夜に紛れるように庭園へ足を踏み入れた。


庭園にそびえる古木の枝に、魔法の力でそっと飛び移る。

目指すのは公爵の宝物庫ではない——短剣は、きっと屋敷主の近くにあるはずだ。


書斎の灯りが、3階のどこかで煌々と輝いている。

「遅くまで仕事とは、男爵家とは大違いだ」と、思わず皮肉が口をつく。


だがその灯りはふっと消え、屋敷は夜の静寂に包まれた。


女は一刻ほど待ち、風の魔法で体を浮かせ、窓から屋敷の中へ侵入する。


窓枠を跨いだ瞬間、静かな声が部屋に響いた。


「——見事な侵入だな。さすがと言うべきか。」


身体が強張る。そこに立っていたのは、やはり彼だった。

剣の柄に手をかけ、ドアにもたれながら静かにこちらを見つめている。


布を取り払った女は、毅然と声を張る。


「……そこをどいて。邪魔する気なら、容赦しないわ」


彼は首を横に振る。


「俺は止めに来た。何故こんなことをする?」


胸が痛む。だが言葉は続く。


「そんなの、あなたに関係ないでしょう! さっさとその力で押さえつければいいじゃないっ」


彼は微かに笑うように首を傾げ、静かに答えた。


「……それは俺の趣味じゃない。君が望むことじゃないだろう?」


「違わない……これしか、私にはないの。他に道なんてなかった」


「ある。君が見えていないだけだ。盗まなくても生きていける道が……君を、助けたいんだ」


その言葉は、女の胸に、かつて見た少年の面影と重なり深く刺さる。

視界がにじむのを、必死で堪える。


「……やめて。そんなふうに言われたら……」


「迷えばいい。背負っているものを誰かに話せばいい。一人で苦しむな」


「一人でやるしかなかったのっ……そうしないと、生きていけなかったから」


手が震え、机の上に置かれたサファイアの短剣に触れる。

冷たい刃先が指を切り裂き、赤が滲む。


「……持って行くのか」


「……ええ。これを持って帰らなきゃ——」


女の赤い瞳は闇に染まる。

彼はそれ以上近づかず、静かに背を向ける。


「行け。ただし、これで最後にしろ」


夜風が窓を揺らす。

侵入は成功したはずなのに、女の胸は重く沈み込んだ。






拙い文章で読みづらい部分もあるかと思いますが、温かい目で読んでいただければ幸いです。よろしくお願いします!

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