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声の複製者  作者: 鵺@n-nue


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第34話 最終話【エピローグ】


ラージの陰謀が暴かれた後、国は一時的な混乱に包まれた。


だが、国王とレオニスは民衆の前に立ち、力強く宣言する。




「この国は、必ず立て直す。父と子、二人で――未来を築く」と。




レオニスは正式に王子として即位し、国王の片腕として国政の舵を取る決意を固めた。


幼き王子は、もはやひとつの時代を担う若き象徴として国民に受け入れられた。





■■





そして――


騒乱のあとに訪れた、久しぶりの静かな夜。




ユリィナとサミュエルは、城のバルコニーで肩を並べ、夜風にあたっていた。


澄んだ夜空に星が瞬き、遠くで木々が揺れている。





「ねえ、サミュエル……今までどこにいたの?」




ユリィナがぽつりと尋ねた。




「そうだな……」




サミュエルは夜空を見上げ、しばし沈黙ののち、いつものように飄々と答える。




「いろいろと渡り歩いていた、とでも言っておこう」




「また、適当なことを……」




ユリィナは怪訝そうに眉をひそめる。




「……あの日、あなたがラージに打たれて、消えて……私、どれだけ辛かったか……」




声がかすかに震える。


だが、サミュエルはいつもの口調で答えた。




「楽しくやっているように見えたがな」




「――えっ!? 見てたの!?」




ユリィナが目を丸くする。


サミュエルは、口の端をわずかに上げた。




「ああ。レオニスの指輪の中にいた」




「……うそっ。じゃあ、なんで出てきてくれなかったの!」




ユリィナの語尾が強くなる。




「……まだ……万全の状態ではなかったのでな。あの日、ラージが禁忌に手を染めたと気付いたのだ。それに対抗するには、少々準備が必要だった」




「……サミュエルには、全部お見通しだったのね」




ユリィナは、ふっと息をこぼした。





「だが、レオニスとは常に繋がっていたぞ」




「えええっ!!?」




あまりに衝撃的な一言に、思わずユリィナが叫ぶ。





「お前たちがあまりにどんくさいものだから、レオニスを通して助言していたのだ」




「……なにそれっ!」




しかし、次の瞬間ユリィナは思わず息を呑む。




――そういえば。


確かに、ある頃からレオニスが急に核心を突いた発言をするようになっていた。




あれは――サミュエルの声だったんだ。




「……もう、なんなのよ。だったらもっと早く言ってくれればよかったのに……!」




呆れ混じりにため息をつく。


だが、ユリィナはすぐに笑顔を浮かべ、ゆっくりとサミュエルの方へ向き直った。




「でも……戻ってきてくれて、本当にありがとう。サミュエル」




その言葉に、サミュエルは目を細める。




「あぁ。……そもそも、あれごときで死んだと思われている方が心外だ。俺は“大魔術師”だぞ? 侮るな」




「はいはい……大・大・大・大・大魔術師様!」




ユリィナは思わず吹き出す。


その声が夜空に響き、静かな城を包んでいった。





――あの時と変わらない日常が、今ここにある。


それだけで、胸がいっぱいになる――そんな夜だった。





■■





ユリィナは、紙袋をサミュエルに差し出した。




「――はい、約束の!」




サミュエルは静かにそれを受け取り、中をのぞき込む。


ふっくらと焼き上がったパンがいくつか並んでいた。




「柔らかく仕上げてあるから、老賢者の姿でも食べられるわよ」




その言葉に、サミュエルの口元がわずかにほころぶ。




「それはありがたい。この国で柔らかいパンは珍しいからな……家宝として飾っておこう」




「あはは、やめてよ。カビちゃう! せっかく作ったんだから、硬くなる前に食べてよね。


――いつだって、また焼いてあげるから」




ユリィナの言葉に、サミュエルはふっと目を細めた。





「実は、俺からも……渡したいものがあるのだ」




そう告げると、彼は懐から一冊のノートを取り出し、そっとユリィナに差し出す。




その瞬間、ユリィナの胸が一気に締めつけられた。




「……こ、これ……」




彼女は震える手でそれを受け取る。


表紙には見覚えのある、やわらかな文字――“ユリ”の母の名前が書かれていた。




それは、幼い頃の母が綴っていた日記帳。


祖母から受け取ったあの日以来、いつも大切にしていた――"ユリ"の宝物だった。




「……ど、どうして……これを……?」




涙が込み上げるのを必死にこらえながら、ユリィナはサミュエルを見つめる。




サミュエルは少し目を伏せ、静かに語った。




「指輪の中に入る前、俺は――お前の通ってきた道を見つけた。そして、もう一つの世界……お前が生きた“場所”を見てきたのだ」




夜風が静かに二人の間を吹き抜けた。




「その中で、お前の想いが最も強く残っていたもの――それがこのノートだった。だから、少しばかり“借りて”きた」




ユリィナはノートを胸にぎゅっと抱きしめる。


あたたかな記憶が、次々とあふれ出す。




つらいことも、悲しいことも、たくさんあった。




しかし……


このノートを手にしている今、この瞬間――心が満たされている。




言葉にできない感情が、涙になってあふれ出す。




「……サミュエル……ありがとう……本当に、ありがとう……」




今のユリィナには、感謝の言葉しか見つからなかった。





サミュエルはどこか気恥ずかしそうに、ぶっきらぼうにハンカチを差し出す。





けれど――


ユリィナはその手ごと、ぐいっと引き寄せ――サミュエルにぎゅっと抱きついた。





「……そうやって、また感情的に……」




そう言いかけた彼の言葉を遮るように、ユリィナがそっと口を開く。




「……サミュエル、大好き」




その言葉に、サミュエルはしばし何も言わず、静かに夜空を見上げた。


やがて、言葉の代わりに――そっとユリィナの背に腕を回し、静かに、優しく抱き返した。




しんとした夜の空気に、二人の鼓動だけが優しく重なる。




静かな夜が、ゆっくりと、穏やかに過ぎていった。





■■





「サミュエル! もう一つの約束も、ね」




「……ああ、俺の覚悟が決まってからな」




「案外、意気地なしね! そういうの、私の世界では“ヘタレ”って呼ぶのよ」




「俺が“ヘタレ”なら……この世界に意気地のある者など、一人もいないことになるぞ」




「……もうっ!」





■■





【番外編】




サミュエルが、ふと口元に笑みを浮かべながら呟く。




「そういえば……お前の元の世界で、元夫もついでに見てきたぞ。聞きたければ、教えてやるが」




ユリィナは一瞬、驚いたように目を見開いたが――すぐに、ゆっくりと首を横に振った。




「ううん、いいの。もう聞かなくていい」




サミュエルは眉をひとつ上げる。




「気にならないのか?」




ユリィナは、はっきりと頷いた。




「うん! もう大丈夫。だって、私は……“ユリィナ”だから!」




その力強い言葉に、サミュエルも静かに頷く。




「ああ、そうだな。……とはいえ、俺なりに“呪い”はかけておいた。きっちり、それ相応のことになるだろう。案ずるな」




その言葉に、ユリィナは思わず吹き出した。




「……ちょっと待って、それはそれで気になるかも。やっぱり……聞こうかな。どんな“呪い”?」




サミュエルは、にやりと笑うだけで、何も答えない。




ユリィナは、星空を見上げながら、声を出して笑った。




信頼できる仲間がいる。


守りたい人がいる。


そして――何より、今はこの世界が好き。




もう“あの日の私”じゃない。




この世界で、私は自分らしく、強く生きていく。





夜風がやさしく二人の間を吹き抜けた。





――END――


…………あとがき…………


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

物語をここまで見届けてくださったこと、心より感謝申し上げます。


後日談や誠の顛末 等々……考えてはいるので

ご要望があれば、書こうと思います。


鵺@n-nue

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