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声の複製者  作者: 鵺@n-nue


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第33話

【毎日12時20分更新予定です】

会場にいる皆が絶望を受け入れようとした、その時だった。





「まだ……終わってはいない」





ユリィナは、はっと顔を上げた。


辺りを見渡すが、天井も扉も、ただ赤い魔力に包まれているだけ。




気が触れたように、ユリィナは笑いながら涙を拭った。




「あはは……私、幻聴まで聞こえてきちゃったみたい……」




彼女はそっと、レオニスの手を握り、頬を寄せた。





すると――


王子の指にはめられた王妃の形見の指輪が、まばゆい光を放つ。




「……っ!?」




その光は瞬く間に広間を包み込み、すべてを飲み込むほどの閃光となる。




目を開けていられない。


そこにいる誰もがその場に伏せ、ただ光が過ぎ去るのを待った。





やがて――


光が収まり、ゆっくりと目を開けると、そこには――






サミュエルが立っていた。





凛とした瞳でまっすぐに立つ彼は


かつてと同じ姿、同じ気配――けれどその身から放たれる光は、かつて以上に力強かった。




ユリィナは、その姿に驚き目を見開いた。




「……サミュエル!」




震える声で名を呼んだ瞬間、ユリィナの視界は涙でにじんだ。


ぼやけていく輪郭を、何度も袖でぬぐって確かめる。




――間違いない。本物の、サミュエルだ。




こんな危機的な状況なのに、胸の奥から喜びがあふれて止まらなかった。


彼の姿を、再びこの目で見ることができた――それだけで。





「……あいさつは、ラージを止めた後だ」




サミュエルはいつもの調子で言い放つと、片手をかざし、詠唱を始めた。


彼の周囲に、清らかな魔力が集まりはじめる。




「レオニス! お前の力も貸してくれ!」




「はいっ!」




レオニスは力強く頷き、すっと立ち上がってサミュエルの隣へ。


その手には――形見の指輪が光を帯びていた。




「レオニスには、王妃の力が受け継がれている。この指輪が、その力を目覚めさせるはずだ。祈れ。そして叫べ。この国を――大切な人たちを、守りたいと強く願え!」




レオニスは両手を胸の前に掲げ、目を閉じる。


その心の奥から、澄んだ祈りが溢れ出す。




「守りたい……この国を。父を、ユリィナを……みんなを……!!」




すると――


彼の全身がまばゆい光に包まれていく。




その光は、サミュエルの魔力と共鳴し、ひとつに重なって――


轟音とともに、空間が大きく震えた。





「貴様らごときに、止められるものかあああああああああ!!!」




ラージの絶叫が広間に轟く。


狂気と絶望のままに、魔力を爆発させようと詠唱の速度を上げていく





だが――




サミュエルとレオニスの放つ光は、生きたいと願う皆の祈りが込められているかのように、強く、着実にラージの魔力を圧倒していった。


その輝きに押され、ラージの詠唱が乱れる。





「やめろ……やめろぉぉおおお!! やめ……ろ……ッ!!」




ラージの詠唱が崩れ、魔力の制御が破綻する。




「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


暴走した炎が逆流し、ついに彼自身を飲み込み――容赦ない灼熱が全身を焼き尽くす。







「終わら……ない……こんな……ことで……終われな……い……」




その言葉を最後に、ラージの姿は炎の中へと消え――跡形もなくなった。






――そして。




広間は、炎の気配を洗い流すように、柔らかな光で満たされた。


温かく、清らかな、慈愛に満ちた光。




静寂の中、誰かが、ひとつ、拍手を打った。


それに続くように、二つ、三つ……やがて、広間全体が拍手に包まれる。


鳴り止まぬ歓声。


それは、ひとりの少年に向けられていた。




王子――レオニス。




幼い身体で、命をかけて勇敢に立ち向かった、真の“王子”に。


今、王宮の広間は、誇りと感謝に満ちた喝采に揺れていた。





■■





「サミュエル!」




ユリィナは思わず走り寄り、彼の背中にしがみついた。


この温もりを、もう二度と離すまいとするように、強く。





「落ち着け。感情的になるなと、あれほど言ったというのに……」




サミュエルは肩をすくめる。


そして、いつもの調子で飄々と話す。





「忘れたのか、俺は一度も負けたことがない――そう言ったはずだ」





「……うん!」




ユリィナは涙をぬぐって顔を上げ、まっすぐに彼を見つめ笑顔で言った。




「――おかえりなさい、サミュエル!」




その声は、誰よりも明るく、優しく響いた。




「あぁ……ただいま」




少し照れたように返したその瞬間――





「サミュエル、赤くなってる! やっぱり、ユリィナのこと……」




レオニスがニヤリと笑いながら茶々を入れる。




サミュエルは間髪入れず詠唱し、ぱっ、と姿を変えた。




――白髪の老賢者。




「陛下、バカなことを言いなさるな。老いぼれをからかうものではありませんぞ」




そのあまりに自然な変身に、ユリィナたちは目を丸くする。




「わっ、逃げたなサミュエルー!」




レオニスがむくれたように口をとがらせる。




それを見たユリィナは、またぽろぽろと涙を流しながら――


今度は大きく、心の底から笑った。




今ある幸せを、胸いっぱいに抱きしめるように。







■■■■■■■■


※次回、ついに完結

カクヨムにて先行公開中です。【完結済み】

https://kakuyomu.jp/works/16818622176804863790

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