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声の複製者  作者: 鵺@n-nue


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第27話

【毎日12時20分更新予定です】

三人は、静まり返った国王の私室へと入った。




レオニスは迷いなく王の傍らへと歩み寄り、祈るように膝をつき、王の手をそっと握った。





ユリィナが、布に包んでいた“触媒石”を丁寧に取り出す。




「――この石を壊せばいいのね」





黒曜石のように鈍く光り、生きているような脈動が見える――


それは、まさしくラージの呪縛を保ち続けていた“触媒石”だった。




「この結界を壊すには……どうすればいいの……」




石は、明らかに魔術によって守られていた。





「魔術書には“強い力で砕け”とあった。普通に叩き割るのは不可能だな」




クジが真剣な表情で答える。




「強い力……サミュエルの魔術じゃないと……やっぱり対抗できないのかも……」




また、ユリィナが弱さを滲ませる。





だが――




「それって……ユリィナの“声”じゃないかな」




レオニスがしっかりと顔を上げて言った。




「ユリィナの声は、僕の悪夢を打ち破ったんだ! あの時、確かに……僕は救われた」





クジも、レオニスの言葉に納得し、続ける。




「そうだ。お前の“声”にはすごい力がある! だから……信じろ、自分の声を」




そう言うと、ユリィナの肩をポンと叩いた。





「ユリィナ、母上の想いを声に乗せて……父上に届けてほしいんだ」




レオニスが差し出した手を、ユリィナはそっと握る。





「わかった。やってみるわ」




目を閉じ、深く息を吸い込み――


(……王妃様、どうか私に力を貸して)




ユリィナは、王妃の声を胸の奥から呼び起こした。


そして、彼女から受け取ったレオニスへの深い愛をその言葉に込める。




「王よ……どうか、目覚めてください。


レオニスが、あなたを呼んでいます。


あの子を、残して逝ってはなりません……


――あの子を……独りにしないで……!」




その声は、静かに石へと染み込んでいく。


触媒石の中から、まるで悲鳴のようなうねりが漏れ出した。




ユリィナは続ける。




「ラージの魔術に魂を囚われたままでは、レオニスに何も残せません……!


生きて……父として、あなたが立ち上がらなければ……!」




パァン――!




鈍い音とともに、石に一本の亀裂が走った。


結界が破られた瞬間だった。




「父上!」




レオニスが父の手を取り、叫ぶ。




「どうか戻ってきて……! 僕には、父上が必要なんです!」


「父上、一緒に……未来を……生きてください!」




レオニスは必死に叫ぶ。


父の存在がいかに大切かを。


母の分まで、自分たちは生きなければいけないのだと。





訴える声に、国王の頬がわずかに動く。


その反応に、ユリィナとクジが息を呑む。




「父上! どうか目を覚まして! 僕の傍にいてください!」




石が眩い閃光を放ち出す。


明滅し始め、命を拒むように、あるいは取り戻そうとするように、色を変える。




深紅が漆黒に、漆黒が光へ――


それはまるで、王の中の生と死が拮抗しているようだった。




「お願いです……! 父上――!!!」




レオニスの叫びが部屋に響く――




パァァァン――!




“触媒石”が弾けるように砕け、無数の光が空へ舞い上がった。


そして、ふわりと王の身体へと降り注ぐ。




沈黙が続く。




――




「……ぅ……あ……」




微かに、国王の喉が動いた。


まぶたが震える。




「父上……?」




レオニスが身を乗り出す。




「……レオ……ニス……?」




かすれた声が、唇からこぼれた。




その瞬間、レオニスの頬に大粒の涙が伝った。




「父上っ……!」




国王は、まるで長い夢から目覚めるように、ゆっくりとまぶたを開ける。


目の前にいる息子の姿をしっかりと捉え、懐かしむように、慈しむように見つめた。




「……あぁ……レオニス……こんなにも……逞しく……」




弱々しくも、確かに浮かぶ父の微笑みに、ユリィナも思わず目を潤ませた。




国王は、震える腕でレオニスを抱き寄せる。


枯れ木のようだった身体に、少しずつ生気が戻り始める。




「……暗闇から……息子と妻に……呼び戻された……レオニス……ありがとう……」




王は、レオニスを見つめ微笑む。


その眼差しは、父として息子を見つめる優しい眼だった。





ユリィナの声と、レオニスの想い。


それらが共鳴し、ラージの深き闇を打ち破った。





王は――いま、確かに目覚めたのだった






■■





ユリィナは、国王にそっと話しかける。




「国王様は、ラージによって魔術にかけられました。しかし、レオニスがあなたを引き戻し……今はもう、ラージの呪縛に囚われてはいません」





しばらくの沈黙ののち――


国王は深く息を吐き、震える口を静かに開いた。




「……私は……弱かった。妻を失った哀しみに……耐えられなかった……」




その声は掠れ、苦しみが心の底から絞り出されているようだった。




「……しかし……その穴を、ラージに突かれるとは……」




国王が、静かにレオニスの手を取る。




「……すまなかった、レオニス」




レオニスはその言葉に応えるように手を握り返す。




「父上……」





国王はユリィナとクジの方へと目を向け、言った。




「ユリィナ、クジ……お前たちの勇気に……心から感謝する……息子を守ってくれてありがとう……」




その言葉には、玉座を預かる者としての威厳ではなく――


人として、父としての、真の重みが宿っていた。




王は、目を細めて再び息子を見つめる。




「……すべてを、取り戻さねばならぬな。ラージの罪も、そのすべてを――正さねば」





父の力強い言葉を受け、レオニスは心に誓う。




(……父上は、自分が支える)





そんな親子の姿をユリィナは静かに見つめ微笑んだ。

カクヨムにて先行公開中です。【完結済み】

https://kakuyomu.jp/works/16818622176804863790

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